コラム
2021.09.15
布川国賠判決確定に寄せて
布川国賠を支援する会 山川清子
9月10日、布川国賠控訴審判決が確定しました。再審請求、再審公判、国賠と続いてきた布川事件に関する裁判はこれですべて終わりました。桜井昌司さんが20歳の時に逮捕されてから半世紀を越え、桜井さんは今74歳です。この間、実に多くの方々が無実の罪で29年間獄中生活を余儀なくされた桜井さん杉山さんを支援してきました。既に亡くなられた方も多数いらっしゃいます。18年前に亡くしました夫、山川豊(東京南部法律事務所元所員)もその一人です。
今回、東京高裁の控訴審判決は、「警察の自白の強要」だけでなく地裁では認めなかった「検察による自白の強要」も違法で国賠法上の不法行為に当たるとしました。捜査について争いのない事実と存在する証拠をもとに丁寧に判断した結果、判決の内容は桜井さんや弁護団の当初からの主張をそのまま認めるものとなり、完全勝訴、「血のかよった」判決だ、と評されています。
ただ、今回の裁判の基礎となった証拠はすべて当初から警察・検察にありました。証拠が隠されていたのです。この点について、1審の地裁判決は一定の場合に証拠開示義務を認め証拠隠しを違法としましたが、控訴審判決は捜査の違法以外については「判断するまでもなく」不法行為になるとして一切触れませんでした。しかし、桜井さんの場合、証拠が開示されていれば確定審の段階で無罪とされたはずで、半世紀も冤罪を背負うことはなかったのです。ほかの冤罪事件でも証拠が開示されず、無実の立証を阻んでいる場合が多々あります。少なくとも再審ですべての証拠が開示されて誤判かどうかを判断する制度が望まれます。
桜井さんはこの春本を出版されました。「俺の上には空が広い空が」(マガジンハウス1400円税別)。この本には、「えん罪になったことは、不運ではあるが不幸ではない」「得るものがあれば必ず失うものがあり、失うものがあれば必ず得るものがある」など桜井語録が満載です。逮捕されてから、いつも明るく楽しく前向きに生きた桜井さんの精神の真髄がわかります。コロナ禍で先が見えない不安な気持ちを励まされたとの感想も寄せられています。全国の書店やAmazonで取り寄せることができますので、一読をお勧めしたいと思います。
2021.08.30
弁護士 佐藤 誠一
えん罪布川事件の元被告、桜井昌司さんが国と茨城県を被告に国家賠償請求を提訴していた件で、8月27日、東京高裁が東京地裁に引き続き、桜井さん勝利の判決をくだしました。事件は1967年茨城県で発生した金融商に対する強盗殺人事件です。桜井さんと杉山さん(故人)が共犯であったとして有罪とされ、無期懲役を服役し、1996年仮釈放になっていました。服役中から杉山さんともども再審請求にチャレンジし、2011年再審無罪が確定しました。
その後えん罪の責任は、国・茨城県にあるとして桜井さんが国賠訴訟に取り組んでいました。東京地裁は、検察側が二人の無罪の証拠を隠していたことを断罪しました。高裁はそれに加えて、警察官が、二人を被害者宅で見かけた目撃者がいる(ウソ!)、ポリグラフ検査で桜井さんの供述が全部ウソと結果が出た(これもウソ)、とか、自白したら新聞報道されないようにしてやる、とか自白しないと重罪になる(死刑!)と自白を誘導する違法な取り調べをしたこと、検察官が、否認を許さない強引な態度で違法な取り調べをしたことを断罪しました。警察官(茨城県)と検察官(国)が寄ってたかって二人を犯人に仕立て上げた、違法捜査であったことが司法の判断で明らかにされたのです。
桜井さんは警察や検察の違法を明らかにして、司法をただす取り組みとして国家賠償訴訟を提起しています。私たちは二人の再審請求や桜井さんの国家賠償請求を支援してきました。当事務所のOBである山川豊弁護士(故人)は、再審弁護団に参加し、再審開始を決定づける重要な役割を果たしました。
今、えん罪に苦しむ多くの方々がおられます。とりわけ、再審事件では、袴田事件の袴田さん(85歳)、大崎事件の原口さん(92歳)の事件が高齢であり、元気なうちに晴れて無罪の声をぜひとも聞かせて差し上げたい事件です。皆さんのご支援をお願いします。
2021.08.10
弁護士 佐藤 誠一
日本人選手の活躍が著しいオリンピックです。開催に反対していた私ですが、その活躍に驚く毎日です。特に卓球の混合ダブルスには目を奪われました。そこでは「敵なし」に見えた伊藤選手が、シングルでは優勝できなかったことにも感心しました。
その一方で大変なコロナ陽性者の数です。途中の増加傾向から、7月のこの頃にはこうなるであろうという数字がそのとおりにあがっています。
これに対する菅総理の会見ですが、人流は減ってるの、高齢者が陽性者に占める割合は少ないの、とまるで気にしなくていい、とでも言わんばかりです。尾身さんが、危機意識が共有されていないことが重大な問題だと言っています。しか危機意識が乏しいのは菅総理でしょう。あの人がテレビで発言すると危機意識は減退します。菅総理は、こんな情勢でもオリンピックの中止はないと言います。しかし、「このままではオリンピックは途中中止、パラリンピック開催見合わせにならざるを得ない、皆さん最後までアスリートが活躍できるように、ご協力いただきたい」とでも言えばまた違うと思いますが、全然響く発言がないですね。
日本人選手のメダルラッシュ、と言われています。しかし、外国人選手は「バブル」と呼ばれる「選手村」に閉じ込められ、思うようなトレーニングもできないなど、ストレスフルな日々を送っています。しかし日本人選手は選手村に入らず、ホテルなどでストレスの少ない時間を過ごしていて、不平等だ、と聞きます。日本人選手のメダルラッシュは、「地の利」だけなく「コロナの利」を活かした結果だとすれば、メダルの色もさめて見えますね…。
2021.06.14
弁護士 坪田 優
2020年6月12日、東京都内や神奈川県川崎市等に居住する原告ら総勢29名が、羽田新ルート指定等の取消を求める行政訴訟を東京地裁に提起しました。弁護団の構成員は、東京南部法律事務所所属の佐藤誠一弁護士と私坪田優を含む計6名です。そして現在、第4回口頭弁論期日を9月22日に控えています。
この訴訟では、①都心上空を経由して羽田空港に着陸する新飛行ルート及び川崎市の石油コンビナート地域上空を通って羽田空港から離陸する新飛行ルートの指定、②東京航空局長の東京国際空港(羽田空港)長に対する、川崎市の石油コンビナート地域上空の飛行禁止を定めた昭和45年の規制(旧通知)を撤廃する通知(新通知)の取消をそれぞれ求めています。
①は、「羽田新ルート」と呼ばれる新飛行ルートを指します。「羽田新ルート」には、都心上空を経由する着陸ルート、川崎市の石油コンビナート地域上空を経由する離陸ルートの2つが含まれています。
②は、「航空機は、国土交通省令で定める航空機の飛行に関し危険を生ずるおそれがある区域の上空を飛行してはならない」とする航空法第80条・同施行規則第173条の規定に基づき発出された旧通知による飛行制限を撤廃する新通知のことを指します。コンビナート地域上空の飛行を制限する旧通知が存在する限りは、前述した新離陸ルートを使用することはできません。そこで、国はこれを撤廃する新通知を発出しました。いわば、②は羽田新ルート設定という目的達成のための下準備です。
都心上空やコンビナート地域上空を低空飛行することにより、周辺住民への騒音被害が生じています。羽田新ルート直下の港区などで平日昼間に空を見上げれば、大きな鉄の塊の影が、轟音を立てて空を切り裂いていくのがすぐに分かるはずです。
また、本訴訟では、航空機からの落下物等による危険についても主張していきます。もし、コンビナート施設に航空機の部品等が落下すれば、コンビナート施設を損傷させ、ひいては火災等の大きな災害を引き起こしかねません。前述した旧通知がコンビナート地域上空の飛行を制限していたという事実は、国も落下物の危険性を十分に認識していたということを意味するのではないでしょうか。
本訴訟では、羽田新ルート直下に居住する住民やコンビナート施設で労働に従事する労働者等の生命・身体への危険、騒音による市民の静穏な生活への影響を十分に考慮することなく、「観光立国」の旗印のもとに利便性のみを追求するような国の姿勢の不当性や不正義を明らかにしたいと考えています。
2021.06.04
清見栄弁護士が5月3日に心不全で永眠しました。71歳でした。
清見弁護士は、中央大学法学部を卒業後、1976年に弁護士になり、東京南部法律事務所で45年間活動しました。全国金属労働組合(現在はJMITU)大田地域支部を中心とする多くの地域の労働事件に関与したほか、総評弁護団(現在の日本労働弁護団)の総括事務局として、労働組合の職場活動の調査を主導しました。清見弁護士が主任となり、能力不足を理由とする解雇に厳しい枠をはめて勝利したセガ・エンタープライゼス事件は、代表的な先例として、労働法を学ぶ学生が触れる事件になっています。
また、大田借地借家人組合の顧問として、大田の借地人、借家人のために数多くの裁判を担当して成果をあげました。
趣味の世界では、音楽鑑賞(クラシック)、読書(歴史と経済)、釣などに加えて、中学の頃から真空管ラジオを自作する機械マニアで、パソコンも自作していました。事務所でワープロやパソコンを導入したのは、他の事務所よりかなり早く1982年頃ですが、清見弁護士が中心になっていました。
2019年末にインフルエンザに罹患した後、間質性肺炎などで通院していましたが、この4月まで事務所に出て仕事をしていました。コロナが収束した後に、皆様と共に偲ぶ機会が設けられればと思っています。清見さんゆっくりお休みください。
塚原英治
2021.04.26
弁護士 塚原英治
8時間労働制という、今では建前としては当たり前になっている(日本では未だに完全には実現していませんが)ことも、19世紀には革命的な要求でした。
1886年5月1日、アメリカの労働者は8時間労働制を要求して全米で19万人が一斉にストライキに入り、34万人が平和的なデモ行進をしました。8時間を認めた企業もいくつもでましたが、労働者の革命が起こるのではないかと恐怖に駆られた経営者や州政府もありました。運動の中心であったシカゴでは5月4日、前日の警察による労働者への襲撃に抗議する労働者がヘイマーケット広場に集まったところ、警官隊が労働者を攻撃し、何者か(スパイだと考えられている)が警官隊に爆弾を投げ、警官隊がライフル銃を乱射する事態となり、多数の死傷者を出す事件がおこりました。首謀者とみなされた労働者4名が死刑に処せられました(裁判については国際的な救援活動が起こりました。後にえん罪と判明し、終身刑に処せられていた労働者は釈放されました)。西欧諸国の社会主義政党・労働組合活動家の国際組織である第二インターナショナルは1889年の創立に際し、このアメリカの労働者の闘いを記念することとし、5月1日をメーデーとして労働者の統一行動日としたのです。8時間労働制が世界的に確立するのは、ロシア革命を経て、1919年のILO第1号条約においてです。
フランスでは、元老院(上院)が1919年に8時間労働制を認め、5月1日を休日とすることにしました。1947年には有休の休日とすることが決まりました。フランスでは、この日の法定労働は禁止されており、そのため公共交通機関も止まりますし、多くの店舗も閉まります。労働組合のパレードが行われる他は、みな家で家族や友人と過ごす日になっているといいます。
* ヘイマーケット事件については、ボイヤー=モレース『アメリカ労働運動の歴史Ⅰ』(岩波書店、1958年)153-187頁に拠っています。
フランスの話は、在日フランス大使館のホームページなどに拠っています。
2021.03.19
みなさま、はじめまして。2020年12月に東京南部法律事務所に入所いたしました、73期で弁護士の永井久楽太(くらふと)と申します。
弁護士を志した理由は様々ありますが、一番最初のきっかけは2008年のリーマンショックです。当時高校生1年生だった私は、日比谷公園で行われた年越し派遣村の活動と、そこでの弁護士の相談活動をテレビを通して知りました。今まで会社のために貢献していた人を平然と切り捨てることに憤りを抱き、弁護士という職業を目指すことを考え始めたことを覚えています。
その後、大学1年生となった2011年には、私が弁護士を現実的に目指す上で2つの大きなことがありました。一つ目は、東日本大震災と福島原発事故です。多くの方が避難を余儀なくされ、それが現在まで続いています。大学時代、東京電力と国に対する損害賠償請求での避難されている方の声を代弁する弁護士の関わりを見させていただき、弁護士になりたいと改めて思いました。二つ目は、2010年のJAL不当解雇事件です。2011年に大学のサークル活動で、フェニックスビルにお邪魔して、本事件について学ばせていただきました。航空機の安全な運航と労働環境等の改善に尽くしてこられた方々を一方的・狙い撃ちに解雇する会社の姿勢に、やはり憤りを覚えました。
弁護士として、様々な困難に直面する方への支えになれるよう精進してまいりますので何卒よろしくお願いいたします。
2021.02.24
映画「日本人の忘れもの」に寄せて
弁護士 安原幸彦
中国残留孤児は、1945年の終戦時に、幼い身で中国・満州に置き去りにされ、40年を越える年月を中国で過ごさざるを得ませんでした。そして、中国にいるときは、「日本人」として日本国の戦争責任を背負わされ、やっとの思いで祖国日本に帰ると「中国人」と言われて同胞として扱ってもらえませんでした。そんな中でも、必死に働いてなんとか生き抜いてきましたが、今70代から80代、介護を要する時期を迎えて、日本語が不自由であることに由来する新たな困難に直面しています。
そんな残留孤児のドキュメンタリー映画「日本人の忘れもの」が2月26日から2週間、JR大森駅東口のキネカ大森で上映されます。また同じ時期にDVDも発売されます。70年以上に及ぶ残留孤児の苦闘と希望を捨てずに人生を切り開いてきた姿が見事に描かれています。是非多くの皆様にご覧いただきたいと思います。
私は、残留孤児を遺棄した国の責任を追求する国家賠償訴訟を担当しました。裁判では、終戦時自分たちだけで逃げ帰った軍隊の非情な実態、戦後残留邦人の中国からの帰国を忌み嫌った日本政府の姿勢、国交が回復し帰国が実現した後も自己責任を強調して支援策をとろうとしない政府の施策など、国が残留孤児を見捨て続けた生々しい実態が明らかになりました。その結果、残留孤児を支援すべきだという世論が高まり、2008年になって、ようやく残留孤児独自の新しい生活支援政策を確立することができました。
その過程で私自身、残留孤児の皆さんからたくさんのことを学びました。自助努力を怠らず、社会貢献を常に考える姿勢には本当に頭が下がります。「日本人の忘れもの」では、インタビューでその一端を紹介させていただきました。
2020.10.24
日本学術会議6名の会員就任拒否は、私にとって他人事ではない。
行政法学の岡田さんは大学時代からの友人。加えて刑事法学の松宮さん、憲法学小澤さん、私も含め多くの弁護士がたいへんお世話になっている。その皆さんの一大事である。
研究会の講師を務めてもらったが、なによりも私どもが担当する訴訟で、裁判所宛に意見書を作成してもらい、学者証人として法廷で証言してもらったこともある。大学教員は、研究や大学での授業のほか、学生や受験生の試験の作問・評点など多忙である。なかなか協力してもらえる学者は少ない。特に国立大学はだめ。私立大学教員か、国立大学を定年で退官したり私立に移籍しないとだめ。今回のことがあると、断られる理由が忙しいだけではないと理解できる。こういうことだったのか、と。
協力をお願いするのは、刑事裁判や行政裁判、国を相手にする裁判で、国を批判する意見書・証言を頼む。もちろん普段の研究のスタンスに沿ってやっていただく。やらせではない。そうした皆さんが就任を拒否された、政府に意見をする、批判をする、政府と異なる見解を披露する、だから菅政権に拒否されたと思わずにいられない。
またこの皆さんは、共謀罪や安保法制など、政府の施策に反対する運動をご一緒いただいた。政府に気にくわない立場の研究や取り組みをしていることが拒否の理由としか考えられない。
ところでこの共謀罪は多くの刑事法学者・憲法学者がこぞって反対の意見表明をした。安保法制は憲法学者・行政法学者が同様に反対の意見表明をした。特に憲法学者は、反対と賛成と、どっちが多いかマスコミでも話題にもなった。安倍政権で官房長官を務めた菅さんにしてみれば、煮え湯を飲まされた気分だったろう。彼は学者が嫌いになったんだろうな。
学術会議は、さまざまな問題で、政府に勧告や提言を行う。場合によっては政府の施策に注文を付ける場合もある。お目付役である。だからこそ、イエスマンであってはならない。内閣は学術会議の職務に口を挟んではいけないと法律が保証する必要がある。
学術会議の勧告や提言は、科学者の立場から、科学者の専門性に基づいて行われるのは当然。科学者の立場から、科学者の専門性に内閣が口を挟むのは能力を超えている。できるはずがない。だから、会員の資格である「優れた研究又は業績がある科学者」かどうかは学術会議が判断して、総理大臣に推薦する。総理大臣にその当否が判定できるわけがない。
会員の任命規定について、多くの声明・意見書が取り上げるが、任期途中でやめたいという会員をやめさせるには学術会議の同意が必要、問題行動のある会員をやめさせるのも学術会議の申出による必要があることは紹介されていない。ここまで身分保障にあつい役職も少ない。
菅さんは、学術会議の予算10億円をしばしば口にするが、「無駄」の象徴である、あのアベノマスクには466億円が用意された。学術会議の46年分である。10億円も会員一人の手当は年間21万円、月額2万円もない。1回の会議に出れば交通費でおしまいである。せめてアベノマスク程度の予算を付けてから何か言ってほしいな、菅さんよ。
弁護士 佐藤 誠一
2019.05.29
東京オリンピックの観戦チケットの抽選申込販売が本日で締め切りですね。4年に1度の祭典であり、日本での開催は1998年の長野オリンピック以来22年ぶり、夏季オリンピックは1964年の東京オリンピック以来56年ぶりですから、大いに盛り上がることでしょう。
他方で、JOC会長である竹田氏の贈賄疑惑が報道されたり、当初7000億円だった予算が会計検査院の調査では3兆円まで膨れ上がる可能性が指摘されたり、それなのに多くのスタッフをボランティアで集めようとしていたり、とお金の問題も数多く取沙汰されています。
私の取り組んでいるオリンピック選手村住民訴訟も、オリンピックとカネをめぐる問題の一つです。5月16日にも裁判期日があり、一部メディアで取り上げていただきました。
この訴訟は、銀座にもほど近い晴海の東京都有地(約13.4㌶、東京ドーム3個分)が、選手村として使用するという口実のもと、1㎡当り10万円程(総額約129億円)で大手ディベロッパー11社に払い下げられたことが不当である、として訴えている訴訟です。
この土地にディベロッパー11社が選手村として使用するための建物を建て、オリンピック・パラリンピック期間中は東京都に貸し出して選手村として使用し、オリンピック・パラリンピック終了後は、マンションとして分譲したり賃貸したりするのです。最近、「HARUMI FLAG」としてホームページも設置され、説明会も行われているようです。
原告側が10月に裁判所に提出した不動産鑑定士による鑑定書では、土地価格は1㎡当り100万円(総額約1600億円)を超えています。つまり、9割以上も値引きしているのです。その理由として、東京都は、選手村として使用するために開発スケジュールが定められていることなどを理由にしています。しかし、いくら何でも安すぎではないでしょうか。
しかも、この土地は、全てを選手村として使うわけではありません。一部の土地は、タワーマンションを建設するための用地です。また、土地の引渡し前に東京都は約540億円をかけて基盤整備を行い、大会終了後は約450億円をかけて建物内装の解体工事を行います。さらに、所有権の移転時期は先に設定されておりディベロッパーはそれまで固定資産税を支払う必要もないですし、大会期間中はオリンピック組織委員会から家賃を支払われます(38億円)。ここまで至れり尽くせりなのに土地代金は9割引きです。
このような安価での土地払い下げは、本来であれば都議会できちんと議論すべきです。しかし、この土地払下げについては、都市再開発法を使って、都議会での決議を省略しているのです。その上、東京都は、土地価格を決定した根拠である調査報告書(「鑑定書」でもないのです。)もほとんど黒塗りにして全面開示は拒んでいます。
一体誰のためのオリンピックなのでしょうか。私たちはせめて都民の財産を不当に支出することは止めてほしい、という思いで訴訟に取り組んでいます。主体となっているのは、「晴海選手村土地投げ売りを正す会」の方々です。会員も募集していますので、気持ちよくオリンピックを開催するためにも、ぜひご支援ください。
弁護士 大住 広太