コラム 月別アーカイブ: 7月 2022

進む民事裁判のIT化~より利用しやすく~

2022.07.05

弁護士 早 瀬  薫

 今年の5月18日、民事訴訟法が改正され、民事裁判のIT化に対応する手続きが盛り込まれました。オンラインで訴状を提出、口頭弁論にウェブ会議を活用する、訴訟記録の電子データ化など、改正された項目は、多岐にわたります。改正法は、段階的に施行され、2025年度中には全面施行を目指すとされています。私たち弁護士も、施行までに十分な対応ができるよう準備する必要がありそうです。
日本の民事裁判のIT化については、諸外国と比べて遅れているとの指摘を受けることが多く、国民が利用しやすい裁判が実現するという意味においては、歓迎すべきことです。実際、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、今回の民訴法改正前から、WEB会議等のITツールを活用した争点整理が行われてきました。2020年4月7日に、初めて緊急事態宣言が出された時には、東京地方裁判所等で裁判期日の多くが取り消されました。社会にとって未曾有の出来事でしたので、やむをえないことではありますが、裁判手続きが再開された後も、隔週で開廷するなどしたため、各種事件の進行は大幅に遅れました。新型コロナウイルスの感染拡大が長期化する中、業務を縮小したままということは許されませんので、裁判所はWEB会議や電話会議を活用し、私たちが所属する弁護士会も、各種委員会などの会議にWEB会議を多く取り入れ、新型コロナウイルス禍における訴訟活動・弁護士としての活動を続けてきました。当事務所においても、WEB会議用のモニターやスピーカーを新たに購入し、WEB会議が円滑に行えるよう設備を整えています。先日、WEB会議で和解が成立した際、ご依頼者にも参加いただきました。ご依頼者にとっても、感染の心配がある中、裁判所のある霞ヶ関まで行くより、当事務所でWEB会議に参加する方が、安心だったようです。
このように、民事裁判のIT化は、便利な側面もありますが、今回の改正法には、いくつかの問題点があることも指摘しておきます。一つは、裁判所が相当と認めるときは、当事者の意思に反してWEB会議等による口頭弁論の開催が可能だという点です。労働事件、公害事件、薬害事件、各種国賠訴訟などの集団訴訟において、証人尋問以外の期日でも、代理人弁護士が弁論を行い、原告当事者が意見陳述を行い、書面では伝えることのできない被害の実態などを語ってきました。こうした法廷における口頭弁論は、裁判所の心証形成、充実した審理に大変重要な役割を果たしてきました。当事者の意思に反してWEB会議等による口頭弁論が開催されることのないよう、今後の運用について十分注視していく必要があります。
二つ目は、直接的にはIT化とは関連性がないと思われる法定審理期間の問題です。今回の法改正では、審理終結まで6ヶ月、判決まで1ヶ月として裁判終結までの期間を原則7カ月としています。確かに訴訟手続の迅速化は、重要な課題です。しかし、期間を優先するあまり、当事者の主張・立証の機会を制限することは、ずさんな審理、ずさんな判決を招きかねません。当事者双方が主張・立証を尽くし、審理を尽くすことで、公正な裁判が実現します。訴訟手続きの迅速化のためには、裁判官や裁判所書記官の増員といった課題を解決することこそ、重要です。期間を制限しない通常の裁判手続きに移行できるという申し出に関する規定もありますので、柔軟な運用が望まれます。

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