コラム 月別アーカイブ: 5月 2022

大人の憲法教室 第2回「『歴史は変えられる』~ジェンダー視点で歴史をふりかえる」ご報告

2022.05.19

弁護士 長尾 詩子

 オンライン連続講座第2回には、「『歴史は変えられる』ージェンダー視点で歴史をふりかえる」というテーマで、国立歴史民俗博物館名誉教授『性差の日本史』プロジェクト代表 である横山百合子さんにお話しいただきました。

2020年秋、『性差の日本史』という画期的な企画展示を見に、国立歴史民俗博物館まで行かれた方も多いかと思います。そうです、あの展示を企画した代表である横山さんからお話をお聞きしました。

企画展示の説明から入るのかと思いきや、最初は、イギリス、台湾、シンガポール、韓国、そしてアメリカの歴史博物館の現在の取り組みの紹介でした。イギリスのマンチェスター博物館で行った哺乳類や鳥類の展示の仕方にみえるジェンダーバイアスの可視化、台湾におけるジェンダー平等教育法制定や博物館におけるジェンダー平等計画の取組等をご紹介いただきました。今世紀いかに世界の博物館がジェンダーを意識して企画展示をしているのかがよくわかりました。

そして、その流れの中での『性差の日本史』の展示のエッセンスをご紹介いただきました。

卑弥呼や八条院暲子、平(北条)政子、和宮、そして職人として働いた女性たちについて、当時の資料を読み解きながら、彼女たちの社会的立場を解説していくお話はとても興味深かったです。例えば卑弥呼は巫女だと思っていましたが当時の資料からは巫女というより政治家と捉えるべき等、いかに今まで学校で教わってきた歴史がジェンダーバイアスがかっていたかを思い知らされました。

また、遊郭についてもお話いただきました。

私は、当時の文書から読み解く遊郭が労務管理として使われていたこと、東京の町奉行の収入の4分の1が遊郭からの収入だったことは知らず、驚きました。

そして、劣悪な環境を変えるためのやむを得ない手段として起こした遊女の放火事件の裁判で、遊女の桜木が書いた調書から読み取れる彼女達の扱われ方の酷いこと!たどたどしいひらがなで一生懸命訴えている文書を見せていただき、170年前にも自分たちの人権を守ろうと必死に闘った女性達がいたのだと胸が熱くなりました。

そして、最後、横山さんは、歴史は変えられると思って運動していくことが大事だということを企画展示を通じて伝えたかったと強調されていました。

 

主に教科書で歴史を勉強してきたためか、歴史というと既に固まった揺るぎようのない事実であるようにも思いがちです。しかし、ジェンダーの視点を入れて歴史を見る視点を変えることで当時の資料の見方が変わり、「歴史の捉え方が変わること」が実感できる、「学ぶ」ことの楽しさがわかるお話でした。

女性やマイノリティの権利を主張する際、よく「昔から○○だから」という反論がされることがあります。しかし、そのような反論に惑わされることなく、歴史は変えられるという確信をもって、人権を主張していくことが大事だと改めて元気をもらうお話でした。

次回は、まさに歴史を変えようと環境問題に取り組み活動している大学生からお話をお聞きします。

どうぞ、ご期待ください!

大人の憲法教室 第1回「助け合える社会を創る~『子ども食堂』はじめの一歩」ご報告

2022.05.10

弁護士 坪田 優

東京南部法律事務所では、オンライン連続講座として「大人の憲法教室」を開催しています。

その第1回である3月16日には、「 助け合える社会を創る~『子ども食堂』はじめの一歩」というテーマで、気まぐれ八百屋だんだんの店主である近藤博子さんにお話しいただきました。

気まぐれ八百屋だんだんは、2008年、週末限定の八百屋として始まりました。近藤さんは、八百屋に来店するお客さん一人ひとりの身の上話を聞いているうちに、地域の方々が集まることができるような場所を作りたいと考えるようになり、2009年には「ワンコイン寺子屋」と称して、500円で子供たちに勉強を教える活動を始めました。八百屋の枠を超え、活動の幅を広げる中、母親の病気が理由で食事をバナナ一本で済ませることがあるという子供の話を聞いたことをきっかけに、2012年8月、近藤さんはだんだんの店内で子供食堂の活動を始めました。

近藤さんが考案した「子ども食堂」という名称は、子どもが一人で入っても怪しまれない場所、という意味合いでつけられたのだそうです。現在、子ども食堂という言葉を聞いて思い起こされるキーワードは、やはり「子どもの貧困」だと思いますが、近藤さんの最初の思いは、必ずしも子どもの貧困のみにフォーカスしたものではなく、更に広く、子どもから老年の方、世代を問わずに地域全体のつながりをつくることにあったのだそうです。

新型コロナウイルス感染拡大の収束の気配が見えない中、通常の子ども食堂の活動は停止せざるを得なかったそうです。しかし、長期休校により給食を食べられなくなった子供たちのため、だんだんでは、地域の飲食店の方にご協力してもらいながら、子供たちに向けたお弁当を作り、提供するようになりました。また、食材のおすそわけ、として、寄付によって集まった食材を無償で配布するなどの活動も行われています。

今回、だんだんにおける近藤さんの活動をお聞きして、人と人とがつながることの重要性を改めて感じました。また、まだ小さな子供たちにも、誰かに何かをしてあげたいという気持ちがあるというお話が印象的でした。現在では、過去にだんだんに通って勉強を教わっていた子供たちが、逆に自分が教える立場になって戻ってきてくれたりもするそうです。このような正の連鎖によって、分断されていた個人がつながり、人と人とが助け合う社会が築き上げられるのではないでしょうか。

今後も、東京南部法律事務所ではみなさまに魅力的な講師の方々のお話をお届けしたいと考えています。今後の企画にも是非ご参加ください。