コラム

ちょっと待って、英語スピーキングテスト(ESAT―J)

2022.09.12

弁護士 長尾 詩子

第1 英語スピーキングテストってなに?

都内では中学受験をする子も増えてはいるようですが、多くの子にとって、人生で初めてぶつかる試練は、高校受験ではないでしょうか。

そんな高校受験について、東京都は今年11月に都内全公立中学三年生に対して民間業者(ベネッセ)による英語スピーキングテスト(以下、「ESAT-J」と言います。)を実施して、それを2023年都立高校入試の合否判定に活用する準備を進めています。

どんな制度になっているかをざっくり説明しますと、

①都立高校受験を希望する都内公立中学3年生(約8万人)は、2022年11月27日(日)(予備日12月18日(日))に、東京都から委託を受けたベネッセコーポレーションがすすめるESAT-Jを受験する

②受験は、都立学校等の会場で、タブレット端末等を使用して行う。

③採点は、ベネッセの関連会社「学力評価研究機構」が行う。

④2023年1月中旬頃に、個人及び中学校にESAT―Jの結果が返却される

⑤2023年1月下旬頃から都立高校入試の出願が始まる。

⑥2023年2月下旬(今年は2月21日)の都立高校入試に、ESAT―Jの結果が活用される

 

第2 ESAT―Jの結果を都立高校入試に活用することの問題点

1 そもそもESAT―J自体に問題が多いこと

知れば知るほど問題点が出てくるESAT―Jなのですが、ざっと挙げられるだけで、以下のような問題点があります。

・問題文を読んで英語で回答をすると言えば簡単そうに聞こえますが、その回答の正解は一つではなく何パターンもあると予想されます。そのようなテストに採点ができるのかという疑問もありますが、それでも都立高校の先生方がある程度の方針を決めその方針の下に採点するなら納得もできます。しかし、ESAT―Jの場合、「学力評価研究機構」が採点するということですが、同機構はフィリピンの業者に採点を依頼するということなのです。採点基準は不明であり、本当に公正な採点ができるのか疑問です。

・テストの公正さの担保の一つとして同一時間に一斉受験することがあります。しかし、ESAT―Jは、1日のうち前半組と後半組に分けて受験することとなっていて、同一時間での受験ではないのです。

・吃音などの事情がありESAT―Jを受けることが困難な子についての申告についての周知も不十分でした。保護者に十分な周知がなく、現場は混乱しています。

・この制度導入にむけて、中学校教員にも保護者にも十分な周知がなされていません。ESAT―Jについては、都教委から2枚のプリントが配布されただけです。心配になった保護者が中学校に電話をして確認しても、教員も説明ができないような状況です。

・ESAT―Jを受験するためには、事前にベネッセのサイトにID登録する必要があります。しかし、このサイト登録についての周知も十分ではありません。

 

2 都立高校入試に活用する問題

そのような問題の多いESAT―Jですが、模試の一つという扱いであれば、まだ見過ごすことはできるでしょう。

しかし、このESAT―Jは、高校入試、しかも都立高校入試に活用されるという点が大きな問題なのです。

①都立高校入試に加算する問題点

ESAT―Jは100点満点のテストです。0~100点までの点数を、0,1~34、35~49、50~64、65~79、80~100と6段階に分けて、順番に、0、4、8、12、16、20と換算点とします(つまり、ESAT―Jで70点を採った子は16点の換算点となります)。そして、この換算点を、従来の入試の点数にオントップで足して、合否判定をするのです。

高校入試は年々に過熱していて、子どもたちは1点も争って勉強させられています。その中で、この加算ですと、ESAT―J65点採った子とESAT―J80点採った子が16点と同じ換算点を付けられること、またESAT―J64点採った子とESAT―J65点採った子は1点の違いしかないのに、換算点では12点と16点と4点も違った点が付けられること等公正とはいえない状況が出てきます。

また、従来の入試の点数の中にはもともと英語の点数20点が入っている上に、さらにオントップでESAT―Jの点数20点を足すことになるので、英語だけ他の教科の倍の得点となってしまうのです。

②不受験者の問題

上記のとおり、ESAT―Jを受験できるのは、都内公立中学校の子どもたちだけです。言い換えれば、私立中学校や都外中学校の子ども達は、ESAT―Jを受験できません。

では、このような不受験者にはどうするかといえば、2月に実施する英語学力検査(筆記試験)の得点から、所定の方法で、仮のESAT―Jの結果を推定して加算することとなっています。

つまり、受験していないにもかかわらず、スピーキングテストの結果を筆記テストから推定されて、得点が付けられることとなるのです。

③現場の混乱

今、中学校では、遅くとも前年12月には担任との面談が終わり、志望校を確定して、担任に入試のための書類を作成してもらって、1月下旬に都立高校受験の出願をします。1月中旬にESAT―Jの結果が返却され、その結果が思ったより悪くて志望校を変更することを検討し始めたとしても、子どもが担任と面談する等して十分に納得して変更することは困難です。ダメだと思いながら高校受験、しかも1校しか受験できない都立高校の受験をするというのは、子ども達にとって大変きついことです。

④GTECCore実施で湧かれる区市町村

ベネッセは、ESAT―Jと非常に似ている形式のGTECCoreというテストを実施しています。そして、都内の区市町村のうちたった9箇所だけが、全校でこのGTECCoreを実施しています。ちなみに、大田区は実施していません。

スピーキングのような慣れを必要とするテストにおいては、同じ事業者が作成する同様のテストを受けたか受けていないかは、結果に大きな影響を与えることは必至です。

しかし、住んでいる区によってその同様のテストを受けているか否かが違ってくるのです。

住んでいるのが大田区だったから慣れていなくても仕方がないよと、不合格になった子に、言えるでしょうか。

⑤2023年に高校受験する子どもたちは、2020年4月に中学に入学しています。ご存じのとおり、2020年4月は新型コロナ感染拡大防止のため、子どもたちはマスクをして登校し、大きな声では話さないことを徹底してきました。中学校の授業では、スピーキングをあまりできていないのです。

 

第3 子ども達の未来のために

高校受験という人生での初めての試練の場では、不合格は、とても辛いものです。それでも、その子自身の努力不足であったならば仕方がないと納得できるかもしれません。しかし、ぱっと思いつくだけで上記のようにたくさんの問題点があるESAT―Jの都立高校入試への活用もあっての不合格では、決して子どもたちは納得できないでしょう。これからの子どもたちに、そんな思いをさせたくないと心から思うのです。

しかし、まだまだこの問題は知られていません。7月からIDの登録(個人情報の登録)では混乱のまま進められています。そんな中、保護者が都立高校入試英語スピーキングテストに反対する保護者の会を設立し、このテストの中止、見直しを求めていくために活動を始めています。

・都立高校スピーキングテストの問題点を周りの方に広めてください。

・中止の電子署名にご協力ください。(Change.org 都立高校入試へのスピーキ

    ングテスト導入の中止を求めます!

・Twitter、FacebookなどSNSでスピーキングテストの情報をフォロー、拡散

してください。・#ESATJは止める #ESATJは中止 #スピーキン

グテストのハッシュタグを使ってください。

・保護者の会のtwitterアカウントをフォローしてください @hogosha20221127

・保護者の会が集めているアンケートにご協力ください

英語スピーキングテストの都立高校入試活用に関するアンケート

https://forms.gle/VF9AydrmumK3MumV7

・9月15日都議会文教委員会でスピーキングテスト中止を求める請願が審議さ

れます。傍聴をお願い致します。

・各地域の区議会、市議会にスピーキングテストの中止を求める請願、陳情を出

してください。

・保護者の会のオンライン署名にご協力ください。 スピーキングテストチラシ

 

これからの人生を歩んでいく子どもたちを「大人の都合」で泣かせないために、

どうぞあなたの力を貸してください。

 

参考記事

https://www.asahi.com/edua/article/14706776

https://dot.asahi.com/aera/2022021500048.html?page=1

https://toyokeizai.net/articles/-/590086

以上

進む民事裁判のIT化~より利用しやすく~

2022.07.05

弁護士 早 瀬  薫

 今年の5月18日、民事訴訟法が改正され、民事裁判のIT化に対応する手続きが盛り込まれました。オンラインで訴状を提出、口頭弁論にウェブ会議を活用する、訴訟記録の電子データ化など、改正された項目は、多岐にわたります。改正法は、段階的に施行され、2025年度中には全面施行を目指すとされています。私たち弁護士も、施行までに十分な対応ができるよう準備する必要がありそうです。
日本の民事裁判のIT化については、諸外国と比べて遅れているとの指摘を受けることが多く、国民が利用しやすい裁判が実現するという意味においては、歓迎すべきことです。実際、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、今回の民訴法改正前から、WEB会議等のITツールを活用した争点整理が行われてきました。2020年4月7日に、初めて緊急事態宣言が出された時には、東京地方裁判所等で裁判期日の多くが取り消されました。社会にとって未曾有の出来事でしたので、やむをえないことではありますが、裁判手続きが再開された後も、隔週で開廷するなどしたため、各種事件の進行は大幅に遅れました。新型コロナウイルスの感染拡大が長期化する中、業務を縮小したままということは許されませんので、裁判所はWEB会議や電話会議を活用し、私たちが所属する弁護士会も、各種委員会などの会議にWEB会議を多く取り入れ、新型コロナウイルス禍における訴訟活動・弁護士としての活動を続けてきました。当事務所においても、WEB会議用のモニターやスピーカーを新たに購入し、WEB会議が円滑に行えるよう設備を整えています。先日、WEB会議で和解が成立した際、ご依頼者にも参加いただきました。ご依頼者にとっても、感染の心配がある中、裁判所のある霞ヶ関まで行くより、当事務所でWEB会議に参加する方が、安心だったようです。
このように、民事裁判のIT化は、便利な側面もありますが、今回の改正法には、いくつかの問題点があることも指摘しておきます。一つは、裁判所が相当と認めるときは、当事者の意思に反してWEB会議等による口頭弁論の開催が可能だという点です。労働事件、公害事件、薬害事件、各種国賠訴訟などの集団訴訟において、証人尋問以外の期日でも、代理人弁護士が弁論を行い、原告当事者が意見陳述を行い、書面では伝えることのできない被害の実態などを語ってきました。こうした法廷における口頭弁論は、裁判所の心証形成、充実した審理に大変重要な役割を果たしてきました。当事者の意思に反してWEB会議等による口頭弁論が開催されることのないよう、今後の運用について十分注視していく必要があります。
二つ目は、直接的にはIT化とは関連性がないと思われる法定審理期間の問題です。今回の法改正では、審理終結まで6ヶ月、判決まで1ヶ月として裁判終結までの期間を原則7カ月としています。確かに訴訟手続の迅速化は、重要な課題です。しかし、期間を優先するあまり、当事者の主張・立証の機会を制限することは、ずさんな審理、ずさんな判決を招きかねません。当事者双方が主張・立証を尽くし、審理を尽くすことで、公正な裁判が実現します。訴訟手続きの迅速化のためには、裁判官や裁判所書記官の増員といった課題を解決することこそ、重要です。期間を制限しない通常の裁判手続きに移行できるという申し出に関する規定もありますので、柔軟な運用が望まれます。

事務所のオンライン用機材

憲法で日本を「平和の緩衝地帯」に!~Oota憲法School「ウクライナ情勢が日本に突きつけるもの」感想~

2022.06.21

 弁護士 海部 幸造

1、伊勢崎賢治さんのお話
6月8日に「大田憲法会議」の学習会に伊勢崎賢治さんをお願いしてお話を伺いました。伊勢崎さんは国連職員や日本政府代表としてシェラレオネやアフガニスタンでの武装解除を指揮され、現在東京外語大学の教授(平和構築学)で、トランペッターでもあります。
たっぷり2時間超お話を伺い、具体的な活動経験に裏打ちされたお話は大変面白く、その内容は多岐にわたっていて、とてもここで全部ご紹介は出来ませんが、いくつかの点をピックアップして、私自身の感想等も交えて書いてみます。但、私が伊勢崎さんのお話をどこまで正確に理解、把握したかは疑問のあるところであり、文責は全て私にあることは最初にお断りをしておきます。

2、戦争のプロパガンダ10の法則
(1)伊勢崎さんは、国は、戦争を始めるため、戦争を継続するために必ず10の嘘をつく、といいます。英国のアーサー・ポンソンビー(1871~1946)(男爵で下院議員、後に上院議員)によるものだそうです。それは、
① われわれは戦争をしたくはない
② しかし敵側が一方的に戦争を望んだ
③ 敵の指導者は悪魔のような人間だ
④ われわれは領土や派遣のためではなく偉大な使命のために戦う
⑤ われわれも意図せざる犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる
⑥ 敵は卑劣な兵器や戦略を用いている
⑦ われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大
⑧ 芸術家や知識人も正義の戦いを支持している
⑨ われわれの大義は神聖なものである
⑩ この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である
こうしたプロパガンダが、メディアを通じて繰り返し流布されるのです。
(2)ホントですねー。 太平洋戦争に向かった日本ではこの全てが当てはまり、その頃の日本のことをそのまま述べているようで身につまされる思いがします。そして今回のロシアも。
後でネットで調べてみたら、これは1920年に提唱されたといいますから、もう100年も前のこと。本当に普遍的な指摘なんだと思います。
そしてこの内容は、現在のロシアのウクライナ侵略を非難する私たち自身も、こうしたプロパガンダに巻き込まれていないか、常に冷静にチェックしなければならないと、改めて思わされることでもあります。

3、ロシアのウクライナ侵略の「理屈」 ・・ NATOの東方拡大
(1)今回のロシアのウクライナ侵略の理由の最も大きなものは、NATOの東方拡大への懸念(脅威)です。
この点で伊勢崎さんは、「NATO東方不拡大」の「約束」について指摘されました。米ソの首脳会談の中で、そのような言明があったことが、ジョージワシントン大学のナショナル・セキュリティ・アーカイブスの調査で明らかになったのです。但し公式の署名文書にはなってはいません。
他の論稿からの私のよみかじりによれば、上記の発言は、1990年のドイツ統一交渉時の米ソの首脳会談の際の、ベーカー米国務長官によるもので、 NATOについて「1インチも東方に進出しない」としているのです。
伊勢崎さんは「こうした事実(発言はあった。公式の署名文書はないという)をどう評価するか意見はいろいろだが、」と述べておられましたが、プーチンはこれを「約束」があったと捉え、西側がこの約束に違反して東方拡大をし、ロシアを脅かしたと主張するのです。
(2)もちろん仮にこれを「約束」があった、西側がそれを破ったと評価できるとしても、それは今回のロシアのウクライナ侵略を正当化する理由には全くなりません。しかし、「約束があった」と評価するか否かは別として、上述のような事実があったことには現在では疑いはありません。そして後にも述べるように、そこに侵攻の「正義」は無くても侵攻の「理屈」はあるので、その「理屈」を「理解」する(「承認する」こととは違う)ことは重要なことのはずです。
ソ連の崩壊後ワルシャワ条約機構が解散したのに対して、NATOは存続するばかりか東方に拡大し、ソ連当時の同盟国やソ連の一部だったバルト3国などもNATOに加盟したこと(結果ソ連崩壊当時のNATO加盟国は16カ国であったものが現在30カ国)、更にウクライナやジョージアも加盟しようとしているということが、そしてそこにロシアに向けてのミサイルが配備されるようなことがあり得るのではないかという懸念が、ロシアにとっての大きな脅威、恐怖と映っても無理からぬことだったと思います。それは、1960年のキューバ危機の際にキューバに核ミサイルを持ち込もうとしたソ連に対してアメリカが強く反発し、核戦争寸前にまで緊張が高まったのと同じです。
(3)これも他の論稿の読みかじりですが、冷静終結に向かった1980年代の末。当時ソ連のゴルバチョフ書記長はワルシャワ条約機構とNATOを全欧州安全保障機構に統合し、経済統合も進める、「欧州共通の家」構想を提唱しました。上記のベーカー米国務長官の発言もそうした全体の流れの中で出たものだったのでしょう。伊勢崎さんは、この時期の西側は、ゴルバチョフが失脚することのないように大事にしようとしていたと説明されましたが、ベーカー発言の背景として納得できる事です。
しかし結局、ワルシャワ条約機構は解散したもののNATOは解散するどころか、東方に大きく拡大していったのです。そして、ウクライナとジョージアのNATO加盟を2008年4月に行われたNATO首脳会談で突然提案したのはアメリカのブッシュ大統領であり、ドイツ、とフランスが「ロシアを刺激する」として反対したにもかかわらず、結局「将来のウクライナ、ジョージアの加盟を支持する」という中間的形で妥協し、今日の火種となったのです。
もしも先述のゴルバチョフの構想のような、ロシアも参加する全欧州安全保障機構が実現していれば、現在のような西側とロシアが対立緊張す欧州の現状は大きく違ったものとなっていたでしょうし、そこまででなくとも、NATOがこれほどに東方拡大をしなければ、今回の戦争も起こらなかったのではないでしょうか。
(4)そして、問題なのは、こうした事実をマスコミは全くと言って良いほど報道しないことです。「NATOの東方拡大」は報道してもその背景については全く報道がありません。前述の「戦争のプロパガンダ」に照らして考えておく必要があると思います。
また、伊勢崎さんは、プーチンは酷いけど、アフガニスタン戦争におけるアメリカ(タリバンがアメリカを攻撃したわけでもないのに、アルカイダをかくまっているとして攻撃をし、しかもボコボコにしている)や、イラク戦争におけるアメリカ(先制攻撃、しかも大量破壊兵器を製造しているという虚偽の証拠に基づき)はもっと酷くないのか、と指摘されます。
それは全くそのとおりですよね。そして、こうした視点をマスコミは全く指摘しません。

4、緩衝国家
(1)伊勢崎さんは、「緩衝国家」という事を話されました。
敵対する大きな国家や軍事同盟の狭間に位置し、武力衝突を防ぐクッションになっている国を「緩衝国家」というそうです。その敵対するいずれの勢力も、このクッションを失うと自分たちの本土に危険が及ぶと考えるため、軍事侵攻され実際の被害を被る可能性が普通の国より格段に高いといいます。ウクライナもノルウェーもそして日本も「緩衝国家」です。
ロシアにとって、NATOの東方拡大、ウクライナのNATO加盟はまさにこのクッションを失う危険、脅威だったという事なのです。
(2)伊勢崎さんは、2014年のロシアによるクリミア併合以降、欧州の状況が大きく変わってきていたと言います。ノルウェーは、NATO加盟国ではあるが、ノーベル賞の国であり、平和活動に存在感を示してきて、平和のブランドを持っていたが、クリミア併合後、北極圏の中心都市トロムソにアメリカの原潜が初めて寄港して大きな議論となっているとのこと。またバルト3国(リトアニア、ラトビア、エストニア)はNATOには2004年に加盟していたが、もしもロシアが進行してくるような場合にミサイル発射の拠点となりロシアに対するトリップワイアー化が進んできているとのことです。
ロシアは緩衝帯を失うことを恐れて軍事力にものを言わせ、かえって緩衝国をNATOの側に押しやったのです。

5、ロシア侵攻の予測とその目標
(1)ロシアのウクライナへの侵攻は今年の2月24日に開始されましたが、今回現に行われたような大きな軍事行動は一般的には予期されて来ませんでした。
しかし。昨年12月の段階で研究者達の国際的会合がノルウェーで開催され、伊勢崎さんも参加され(ロシアからも研究者の参加があったとのことです)、状況を分析して、戦端が開かれることは必至と予想していたといいます。すなわち、今回の戦争は突然始まったものでは決して無い。ロシアは昨年4月の段階から兵力の集中を進めて準備を進めてきており、にもかかわらず、戦争回避のための外交努力がなされなかったということなのです。
(2)上記の会合ではまた、ロシアは何を目標にするかといった点も検討され、概ね以下のような分析だったとのことです。すなわち、
・ロシアはウクライナ全体を軍事的に制圧するなどということは無理だし、考えていないだろう。なぜなら、軍事的制圧には、点ではなく面を支配出来る陸軍が必要であり、莫大な資金も必要である。人口4000万を超えるウクライナの制圧には100万の兵力が必要だが、ロシアにはそのような兵力はない(陸軍は30万。予備兵を入れても50万という)し、資金もない。プーチンはそのような無謀なことはしない。
・獲得目標とされるのは、東部ドンバス地方および、同地方とクリミア半島を結ぶ回廊地帯。更にできればそれを西に伸ばして、黒海沿岸部を抑え、ウクライナの内陸化を図る(ロシアが黒海を支配する)だろう。
・最初はキエフを攻めるだろうが、落すつもりはなく、東部のウクライナ軍をキエフに引き寄せるための陽動作戦になる。
現状は、まさにこうした事態に進もうとしているように見えます。

6、停戦の仲介
伊勢崎さんのお話では、この戦争を1日も早く終わらせなければならないが、そのためには仲介者が必要であり、仲介者としては中国しかないだろう。しかし仲介者にはリスクがある。つまり失敗すれば面子がつぶれる(特に習近平は面子がつぶされるようなことは絶対避けるだろうな~というのは私の感想です)。そして仲介に出やすいような国際世論を作る必要がある、とのことでした。
私などは、本当は憲法9条を持つ日本こそがそうした国際世論作りの活動をしたら良いのに、と思うし、伊勢崎さんもそのように考えられているのではないかと(勝手に)受け止めているのですが、今の政権の人たちには毛ほどもそうした発想はないのでしょうね。本当に情けないことです。

7、地位協定、新9条論、「平和の緩衝地帯」
(1)そのほか、伊勢崎さんは、様々なお話をされました。
アフガニスタンからのアメリカ、NATOの撤退の際の各国の対応(自国民のみならず、アフガニスタンの協力者達の撤退に努めた)と比べて唯一自分たちだけがさっさと逃げた日本の対応の酷さ、ウクライナ人は助けるがミャンマー人は助けない日本の対応の問題性、人権外交を考える超党派議員連盟の結成活動、国際人道法、人権の普遍的管轄権の問題等々、多岐にわたるお話をされましたが、とてもご紹介できません。
最後に地位協定のお話しをされました。
伊勢崎さんによれば、地位協定とは、ある主権国家の中に何らかの事情で異国の軍隊が駐留するという異常事態を制度化するものである、とされています。そして、「戦時」-「準戦時」-「平和時」と移行するのに対応して、駐留軍の自由度は低減し被駐留国の主権が回復してゆく(むろん主権国家の側の強い主張、交渉により)のが一般です。しかし、アメリカと地位協定を結んでいる外の国々と比べて日本の主権の放棄ぶりは、ドイツ、イタリア、韓国、フィリピン、アフガニスタン、イラク等と比較しても際立っているのです。
この問題については、伊勢崎さんと布施祐仁さんの共著「主権なき平和国家 ~地位協定の国際比較から見る日本の姿~ 」(2017年に出版されたが、昨年10月に増補版が集英社文庫から出版)があります。私も取り寄せて、現在読み出したところですが大変い興味深い本です。皆様に是非一読をおすすめします。
この本の最後の方で、伊勢崎さんの読者へのメッセージがあります。少し長くなりますが一部を引用します。
「アメリカの仮想敵国の真正面に位置する日本。加えて、アメリカ本土から最も離れたところで、その仮想敵国の進出を抑える防波堤となる『緩衝国家』日本。この日本を支配するにおいて、国内で『最も差別された地域』沖縄に、あえて駐留を集中させ、駐留が起因となる反米感情が、常にこの地域に限定された『民族自決運動』になるように、その緩衝国家本土の『反米国民運動』に発展させない。これが誰かのグランドデザインだったら、あっぱれとしか言いようがない。」
なるほど、私たちはまさ指摘されるような状態に置かれてきたと思うし、その時々の権力により、こうした方向への判断が積み重ねられてきたのだろうと思いました。
(2)講演ではほとんどお話をされませんでしたが、伊勢崎さんは「新9条」を提唱しておられます。憲法の前文と9条をすばらしいものとして受け止めた上で9条2項についてこのままで良いのか、と問題提起をされています。それは9条を破壊しようとする改(壊)憲派の議論とは異なるものであり、現在の国際状況の中で軍事的抑止力をどう評価するかの問題であり、また、国家の最大の暴力装置である軍隊のコントロールの法整備をいかにするかの問題であろうと思います。
私自身は憲法9条堅持論者ですが、伊勢崎さんの「新9条論」も、「日米地位協定の改定」が大前提であり、その「改定」とは、「在日米軍基地が日本の施政下以外の他国、領域への武力行使に使われることの禁止」であるということのようです(上記の本の布施さんの後書き)から、目指している方向はそれほど違わないように思います。
しかし、今この時期に、9条堅持か、新9条かを論争しても改(壊)憲論を利するだけだと思います。伊勢崎さんも今回のお話の中で、9条2項についての議論は、「しばらく埋めておく」と話しておられました。
(3)私が最近読んでとてもしっくりとした、浄土真宗本願寺派延立寺の松本智量住職の言葉を転記させてもらいます。
「今回のロシアの侵略をもって、『攻め込まれたらどうするのか』といって、憲法9条の話を始めることほど乱暴なことはありません。侵略や戦争を天災と勘違いしているのではないか。 侵略に正義はないが、『理屈』はある。侵略の相手にも『理屈』があり、ある日突然、侵略が襲いかかってくるものではありません。ならば侵略の可能性が現実になる前にやるべきことは山ほどある。憲法9条も前文も、いかにして武力衝突が起きないようにするか、その努力を求めているところに一番大事な本質があります。」
本当にそうだと思います。9条に関して議論すべき点はいろいろあるが、今、この憲法前文と9条の一番本質的な部分を投げ捨て、破壊しようとしているのが改憲派の策動です。そして、それを許さないという点では、伊勢崎さんも一致できるのだろうと受け止めています。
(4)4年前に亡くなられた翁長前沖縄知事は、要旨次のようなことを述べておられたとのことです。
「離島である沖縄は、海で諸国とつながっているという世界観を持っている。沖縄戦という未曾有の体験をへて、平和に対する絶対的な願いを持ち続けている。基地問題の解決は、日本が平和を構築していくという決意表明になるだろう。沖縄は米軍基地によって世界の安定に貢献するのではなく、『平和の緩衝地帯』として貢献したいと考えている。
沖縄が日本とアジア、日本と世界の架け橋になる役割を存分に発揮していく。辺野古新基地建設反対に託して、そんな時代が来ることを私は夢見ている。」
日本全体が、「緩衝国家」として米中対立の戦場になることなく、積極的に「平和の緩衝地帯」として米中戦争を防ぐために役割を果たす事ができたならすばらしいのに、と思います。そのためにも、今9条を破壊させてはならないと思います。(参照。「日米同盟・最後のリスク」布施祐仁。創元社)

大人の憲法教室 第2回「『歴史は変えられる』~ジェンダー視点で歴史をふりかえる」ご報告

2022.05.19

弁護士 長尾 詩子

 オンライン連続講座第2回には、「『歴史は変えられる』ージェンダー視点で歴史をふりかえる」というテーマで、国立歴史民俗博物館名誉教授『性差の日本史』プロジェクト代表 である横山百合子さんにお話しいただきました。

2020年秋、『性差の日本史』という画期的な企画展示を見に、国立歴史民俗博物館まで行かれた方も多いかと思います。そうです、あの展示を企画した代表である横山さんからお話をお聞きしました。

企画展示の説明から入るのかと思いきや、最初は、イギリス、台湾、シンガポール、韓国、そしてアメリカの歴史博物館の現在の取り組みの紹介でした。イギリスのマンチェスター博物館で行った哺乳類や鳥類の展示の仕方にみえるジェンダーバイアスの可視化、台湾におけるジェンダー平等教育法制定や博物館におけるジェンダー平等計画の取組等をご紹介いただきました。今世紀いかに世界の博物館がジェンダーを意識して企画展示をしているのかがよくわかりました。

そして、その流れの中での『性差の日本史』の展示のエッセンスをご紹介いただきました。

卑弥呼や八条院暲子、平(北条)政子、和宮、そして職人として働いた女性たちについて、当時の資料を読み解きながら、彼女たちの社会的立場を解説していくお話はとても興味深かったです。例えば卑弥呼は巫女だと思っていましたが当時の資料からは巫女というより政治家と捉えるべき等、いかに今まで学校で教わってきた歴史がジェンダーバイアスがかっていたかを思い知らされました。

また、遊郭についてもお話いただきました。

私は、当時の文書から読み解く遊郭が労務管理として使われていたこと、東京の町奉行の収入の4分の1が遊郭からの収入だったことは知らず、驚きました。

そして、劣悪な環境を変えるためのやむを得ない手段として起こした遊女の放火事件の裁判で、遊女の桜木が書いた調書から読み取れる彼女達の扱われ方の酷いこと!たどたどしいひらがなで一生懸命訴えている文書を見せていただき、170年前にも自分たちの人権を守ろうと必死に闘った女性達がいたのだと胸が熱くなりました。

そして、最後、横山さんは、歴史は変えられると思って運動していくことが大事だということを企画展示を通じて伝えたかったと強調されていました。

 

主に教科書で歴史を勉強してきたためか、歴史というと既に固まった揺るぎようのない事実であるようにも思いがちです。しかし、ジェンダーの視点を入れて歴史を見る視点を変えることで当時の資料の見方が変わり、「歴史の捉え方が変わること」が実感できる、「学ぶ」ことの楽しさがわかるお話でした。

女性やマイノリティの権利を主張する際、よく「昔から○○だから」という反論がされることがあります。しかし、そのような反論に惑わされることなく、歴史は変えられるという確信をもって、人権を主張していくことが大事だと改めて元気をもらうお話でした。

次回は、まさに歴史を変えようと環境問題に取り組み活動している大学生からお話をお聞きします。

どうぞ、ご期待ください!

大人の憲法教室 第1回「助け合える社会を創る~『子ども食堂』はじめの一歩」ご報告

2022.05.10

弁護士 坪田 優

東京南部法律事務所では、オンライン連続講座として「大人の憲法教室」を開催しています。

その第1回である3月16日には、「 助け合える社会を創る~『子ども食堂』はじめの一歩」というテーマで、気まぐれ八百屋だんだんの店主である近藤博子さんにお話しいただきました。

気まぐれ八百屋だんだんは、2008年、週末限定の八百屋として始まりました。近藤さんは、八百屋に来店するお客さん一人ひとりの身の上話を聞いているうちに、地域の方々が集まることができるような場所を作りたいと考えるようになり、2009年には「ワンコイン寺子屋」と称して、500円で子供たちに勉強を教える活動を始めました。八百屋の枠を超え、活動の幅を広げる中、母親の病気が理由で食事をバナナ一本で済ませることがあるという子供の話を聞いたことをきっかけに、2012年8月、近藤さんはだんだんの店内で子供食堂の活動を始めました。

近藤さんが考案した「子ども食堂」という名称は、子どもが一人で入っても怪しまれない場所、という意味合いでつけられたのだそうです。現在、子ども食堂という言葉を聞いて思い起こされるキーワードは、やはり「子どもの貧困」だと思いますが、近藤さんの最初の思いは、必ずしも子どもの貧困のみにフォーカスしたものではなく、更に広く、子どもから老年の方、世代を問わずに地域全体のつながりをつくることにあったのだそうです。

新型コロナウイルス感染拡大の収束の気配が見えない中、通常の子ども食堂の活動は停止せざるを得なかったそうです。しかし、長期休校により給食を食べられなくなった子供たちのため、だんだんでは、地域の飲食店の方にご協力してもらいながら、子供たちに向けたお弁当を作り、提供するようになりました。また、食材のおすそわけ、として、寄付によって集まった食材を無償で配布するなどの活動も行われています。

今回、だんだんにおける近藤さんの活動をお聞きして、人と人とがつながることの重要性を改めて感じました。また、まだ小さな子供たちにも、誰かに何かをしてあげたいという気持ちがあるというお話が印象的でした。現在では、過去にだんだんに通って勉強を教わっていた子供たちが、逆に自分が教える立場になって戻ってきてくれたりもするそうです。このような正の連鎖によって、分断されていた個人がつながり、人と人とが助け合う社会が築き上げられるのではないでしょうか。

今後も、東京南部法律事務所ではみなさまに魅力的な講師の方々のお話をお届けしたいと考えています。今後の企画にも是非ご参加ください。

ロシアのウクライナ侵略と憲法9条

2022.04.19

ロシアのウクライナ侵略と憲法9条

                             弁護士 海部 幸造

 

1、ロシアのウクライナ侵略
(1) ロシアのウクライナ侵略が、今このときにも続いています。
ロシアは、子ども達が避難する建物、病院なども砲撃、空爆し、国際司法裁判所の侵攻を即時停止しろという命令(仮保全措置)をも無視し軍事攻撃を続けています。そして、ロシア軍が撤退した後のウクライナ北部では、数多くの市民の遺体が発見され、女性への暴力行為、略奪、破壊が明らかになりつつあり、東部のマリウポリの状況も現時点で厳しく、同市当局の推計では、死者は民間人を含め2万人を超えるとのことです。ウクライナから国外への避難民は500万人といわれています。
本当に許し難い、国連憲章、国際法違反の明白な侵略行為であり、1日でも一瞬でも早く終わらせたいと思います。
(2)改憲派は、ここぞとばかりに「敵基地攻撃能力」「核の共有の検討」「軍事費GN P2%」そして「9条改憲」と声を張り上げ、維新などもその声に追随しあおっています。
しかし、私は、こうした意見は、極めて短絡的、感情的な議論だと考えています。
(3)「弁護士9条の会・おおた」では、去る4月6日に「台湾情勢・ウクライナ問題をどう考えるか ~憲法9条の現実的有効性~」と題して防衛ジャーナリストの半田滋さんにご講演を頂きました。この講演会は、設定をした段階では台湾の問題だけをテーマにしていたのですが、その後ロシアのウクライナ侵略が勃発し、急遽ウクライナ問題もテーマに加えてお話を頂きました。
半田さんは、ロシアのウクライナ侵略の背景、侵略に至る経緯、状況や、台湾を巡る日本、中国、アメリカの状況等々を整理して、ジャーナリストらしく、事実に基づいた、大変わかりやすくお話し頂き、私もとても勉強になりました。
以下は、このときの半田さんのお話を踏まえ、その他、いろいろな方達の論稿を読んでみて、基本的な点のいくつかについて、現段階で私なりに思っていることを、自分自身の整理の為にも簡単にまとめてみたものです。

2、改めて思うこと・・なんとしても戦争を回避すること
今回のことで思うのは、一つは、戦争がいかに悲惨なものであるか、そして、ひとたび戦争になってしまうと、国や権力者の面子、国内状況、権力者の自分の権力維持への固執、その他様々な思惑等々も絡んで、戦争を止めることは本当に難しいということです。
そしてもう一つは、だからこそ、何よりも重要なことは、なんとしても戦争といった状態に至ることのないように事前のあらゆる外交努力を尽くし、安全保障体制を構築することが大切だ、ということです。そのことを、改めて強く思いました。

3、日本国憲法の平和主義
改憲派の人々は「9条があれば平和が守れるのか」等と言います。しかし、日本国憲法の平和主義の意味はそんな単純で抽象的なものではありません。
日本国憲法の前文や9条の意味は、非軍事、外交に徹した安全保障体制を構築する努力を積み重ねていくということ。そうした安全保障体制を構築する上で前文と9条とが大きな指針となると同時に、日本がそうした大原則を掲げているということが相手国にとっても大きな安心材料となる、ということです。意見、体制の異なる相手でも、敵として排斥するのではなく、対話を重視し、そのためのパイプ、関係の構築に努める、ということです。

4、軍事的抑止力論
改憲派の人々は、軍備を拡張することで相手の武力行使を抑止できる、と主張するわけです。しかし、こちらが軍備を増強すれば、相手は更にこちらの軍備に負けないように軍備を増強する。それに対してこちらは更に軍拡をと、互いに軍拡を競り合い、緊張はますます高まっていくことになります。現に歴史的に見ても、そして現状も、そうした事態になっています。また、一方が軍事的威嚇を振りかざせば、相手は「そんなことで脅されはしないぞ」、「退かないぞ」、と威嚇を返し、互いに「いつかは相手が引き下がるだろう」と互いの威嚇がエスカレートしていきます。そうして、軍事的緊張はますます高まります。軍拡の悪循環(安全保障のジレンマ)は結果として国民の安全のリスクをますます拡大します。もしもそうした軍事緊張の中で偶発的にもせよ戦端が開かれ、武力衝突が起きるようなことになったら、国民の命、生活、安全はどうなるのでしょうか。
そうした事態、危険性を軍事的抑止論を振りかざす人々はどこまで考えているのでしょうか。私には、ただ「軍備を増強すれば、相手はリスクを考えて攻めてこないだろう」と、極めて楽観的にしか考えていないように思えます。

5、プーチン大統領の懸念
今回の、ロシアのウクライナへの侵略は、NATOの東方拡大を懸念したことが最大の理由といわれています。すなわち、ソ連の崩壊後ワルシャワ条約機構が解散したのに対して、NATOは存続するだけでなく拡大し、ソ連当時の同盟国やソ連の一部だったバルト3国などもNATOに加盟したこと(結果ソ連当時加盟国は16カ国であったものが現在30カ国)、更にウクライナやジョージアも加盟しようとしているということが、プーチン大統領の大きな懸念であり、それをなんとしても阻止したいということが今回の侵略の基本的な動機だとされています。そして、ウクライナとジョージアのNATO加盟を2008年4月に行われたNATO首脳会談で突然提案したのはアメリカであり、ドイツ、とフランスが「ロシアを刺激する」として反対したにもかかわらず、結局「将来のウクライナ、ジョージアの加盟を支持する」という形で決着し、今日の火種となったのです。
ロシアにしてみれば、旧ソ連当時その一部であった国までが自国と対立する西側の軍事同盟に加入し、そこに自国に向けた西側のミサイルが配備されるようなことになれば自国の安全は危機に瀕する、と懸念(恐怖)したのです。

6、外交による戦争防止の可能性
もちろん、一つの国がどのような軍事同盟に加入するのかはその国の判断の問題ですから、自国の意思を押しつけるために相手の国に攻め込むなどといったことは、到底許されることではありません。上記のような懸念があったとしてもロシアの侵略が合理化されることはいささかもありません。
しかし他方、ロシアのこうした懸念を考慮すれば、ウクライナ側からも、「ウクライナはNATOには加盟せず、中立的立場をとり、同時にロシアや西側諸国がウクライナの安全を保障する体制を作る」といった妥協策はあり得たし、現に戦争が始まった後に、停戦協議でそうした内容がウクライナからも提案された旨の報道がありました。
私が思うのは、そういった内容であれば、戦争が始まる前の段階で十分に検討、協議が出来たのではないか、そうした協議が出来たのであれば、この悲惨な戦争を回避することが出来たのではないか、という事です。
もちろんそれは今になって言うように簡単なことではないのでしょうし、問題は東部2州やクリミアの問題等もありますからなおさらです。しかし、そうした解決の道筋があり得たにもかかわらず、この悲惨な戦争に突入してしまったということは「外交の失敗」という事なのではないかという思いが拭えません。
また、今回のロシアのウクライナ侵略で、これまで中立の立場であったフィンランドとスウェーデンがNATOに加盟することを検討する旨が伝わり、これに対してロシアはフィンランドとの国境に核部隊を配備すると威嚇をしています。もちろんロシアのそのような威嚇政策(ましてや核兵器による)は強く非難されるべきです。しかし状況は、ますます緊張がエスカレートし、欧州の戦争、さらには第三次世界戦争の可能性すら否定できなくなりつつあります。私は、NATOの拡大は避けるべきなのではないかと考えています。

7、外交、徹底した対話と緊張緩和を
ですから、私は、戦争といった状態に至ることのないようにするためには、軍拡を争うのではなく、武力による威嚇で相手を従わせようとするのではなく、徹底して軍事衝突を回避し、緊張を緩和する方向へ、粘り強く対話を継続することこそが何よりも必要だと考えています。
しかし、今、改憲派や岸田政権がやろうとしていること、はそれとは真逆の、短絡的な反応で緊張を高める方向での施策でしかありません。

8、中国について
中国について言えば、同国の南シナ海、東シナ海や台湾などでの覇権的行動は大きな問題です。強い怒りを覚えます。
しかし、これに対して短絡的に軍事力の増強で対応しようとするのは間違だと思います。それは、互いの軍拡の連鎖の中で緊張を高めるだけであり、現にそうなっています。
特に今、アメリカの対中政策の転換に従って、日本政府は、安保法制の下、奄美大島、沖縄本島、宮古島、石垣島と、ずらりと、中国に向けて、ミサイル基地を作り、横須賀、岩国、佐世保と、日本全体がアメリカの対中戦略体制の最前線基地にされようとしていています。
この状況でひとたび台湾を巡って米中の衝突が起きたならば、それが日本に直接関わりが無くても、安部氏や麻生氏によれば「台湾有事は日本有事」だということですから、日本がアメリカの戦争に巻き込まれる危険がますます現実のものとなってきています。中国との武力衝突の危険性の最大のものは、この点にこそあると考えています。

9、ロシアが北海道に攻めてくる?
ロシアが北海道に攻めてくる、それに備える必要がある、などと言った言説もありますが、全く違うと思います。
先に述べたように、ロシアがウクライナに侵略したのは、西側の軍事同盟であるNATOにウクライナが加盟しようとし、西側がその可能性を否定しない状況にプーチン大統領が恐れを抱いたからです。そのことと比較して考えても、北方4島を既に実効支配しているロシアが、何の為に北海道に攻め込む必要があるというのでしょうか。更に言えば、ロシアは、今回のウクライナ侵攻の理由として「ウクライナにおけるロシア系住民の保護」も上げていますが、北海道においてそのような主張の根拠となり得る現状は全くありません。

10、「敵基地攻撃力」「核の共有」
現在の不安定な安全保障状況の中で、一定程度の軍事力があった方が安心という考えもありますし、私もそうした思いはわかります(いろいろと意見はあるでしょうが)。
しかし、私は、もしそう考えたとしても必要となるのは、攻められた場合に防御する、本当の意味での「専守防衛」の軍事力だと考えています。
「専守防衛」とは、「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢をいう。」(令和三年版「防衛白書」)とされています。
敵基地攻撃力や、核兵器の共有などがこの「専守防衛」を大きく逸脱するものであることは明らかですし、現状でこうしたものが必要とされる合理的理由はなにもありません。そのようなものは、中国や北朝鮮との軍事的緊張を高めるだけであり、有害無益だと思います。

11、「アベ改憲」が何を狙っていること
改憲派の人々は、「アベ改憲」について、「9条に自衛隊を書き込むだけ」「自衛隊はこれまでと何も変わらない」などと主張してきました。しかし、「アベ改憲」の提唱者である安倍元首相がこの間声高に叫んでいる内容を見れば、この改憲案が何を狙っているのかは明らかだと思います。
安倍さんは、この間「敵基地攻撃」「敵国の中枢を破壊する能力」「核の共有」といったことを強く主張しています。「アベ改憲」はこうした「核の共有」までをも可能とするものとして構想されていることが提唱者自身のこの間の言説によって明らかなったと思います。
「アベ改憲」は、「自衛隊はこれまでと何も変わらない」どころか、これまで曲がりなりにも建前上「専守防衛」をその制約として認めざるを得なかった自衛隊を、その制約そのものをおおっぴらに外して、海外に出て行って他国を核で攻撃することまでも可能な「軍隊」へと大きく変質させる改憲だということだと考えています。

12、憲法9条
憲法9条があったからこそ、戦後日本は、これまで、ベトナム戦争でも、湾岸戦争でも、アフガン戦争でも、イラク戦争でも、自衛隊を直接、戦闘現場に出すことなく、直接の戦闘行為に巻き込まれずに済んできました。
これに対して昨年の総選挙以来盛んに言われるようになってきた、「敵基地攻撃能力」、「憲法改正」等は、軍拡競争を拡大し、緊張を高め、日本が戦場になる危険を高めるだけであると思います。
平和憲法の精神に基づいて、軍事に依らず、緊張緩和を図り、徹底的な話し合いに基づくに総合的な安全保障の体制を追求すべきですし、憲法9条を持つ日本の独自性を生かした外交努力を行う、そうした政策への転換が求められていると考えています。

2022年4月1日より成年年齢が18歳に引き下げられました

2022.04.11

18歳で成人に

                             弁護士 塚原 英治

2018年になされた民法の改正が2022年4月1日に施行され、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。これに伴い様々な法律が改正されています。簡単に見ておきましょう。

● 18歳成人は世界の常識
成年年齢は各国とも選挙権が行使できる年齢や兵役に服する年齢に合わせて定められるのが通常であり、OECD(経済協力開発機構)が2016年にまとめた資料によれば、35の加盟国のうち32の国で18歳とされていました。これより高いのは19歳の韓国と20歳の日本、ニュージーランドだけでした。アメリカは州によって異なり、18歳が45州、19歳が2州、21歳が3州でした。
日本では、2007年制定の日本国憲法の改正手続に関する法律3条が、18歳で投票権を与え、附則で18歳選挙権についての検討・措置を定めたことから、選挙年齢については一足先に議論が進み、2016年6月から18歳に引き下げられていました(2015年の公職選挙法改正)。
裁判員裁判の裁判員の資格は「衆議院議員の選挙権を有する者」と定められているので(裁判員法13条)、18歳で選挙権が認められたときに資格が与えられるべきでしたが、2015年の公職選挙法改正法の附則10条で、「当分の間」職務に就くことができないとされていました。後述の2021年の少年法改正の際にこの附則は削除され、18歳から裁判員として職務に就くことが可能になりました。名簿作成の関係で、裁判員候補の通知が来るのは2023年以降になります。

● 成年になると何が変わるのか
民法818条1項は「成年に達しない子は、父母の親権に服する。」と定めています。
これまで未成年者の婚姻(男は18歳、女は16歳以上から可能とされていた)には親の同意が必要でしたが(改正前民法737条)、婚姻年齢は男女とも18歳に統一され(民法731条)、18歳で成人になるので、親の同意なく婚姻することが可能になりました(民法737条は無意味な規定になったので削除されました)。
未成年者は、取引の能力が一般的に低いことから、これを保護する必要があるとされています。そこで、民法5条は、1項で、「未成年者が法律行為(注:契約など)をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。」、2項で「前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。」、3項で「第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。」と定めています。
未成年者が不利な契約をしたときは法定代理人(親権者=親、または未成年後見人)が取り消せる仕組があるのです。
成年になると一人で契約をすることができる代わりに、責任も負うことになります。
若者は経験が乏しく悪質商法などの被害に遭いやすいために、消費者被害の防止策が求められています。
成年者に限られている資格、例えば公認会計士、行政書士、司法書士などは、18歳でも取得可能になります(公認会計士法4条1号など)。もちろん試験に合格する必要があります。
日本国籍の外に外国の国籍も有している場合、「外国及び日本の国籍を有することとなった時が18歳に達する以前であるときは20歳に達するまでに、その時が18歳に達した後であるときはその時から2年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。」とされ、従来より2年早まりました(国籍法14条1項)。18歳が成年年齢であることにリンクしたものです。外国人が日本に帰化できる年齢も18歳以上で認められることになりました(国籍法5条1項2号)。

● 従来成年に認められていたが、20歳未満ではこれからも認められないものがある
これまで、成年に達した者は養子を取る(養親になる)ことができましたが、18歳では適当ではないとの考えから、養親になるのは20歳に達した者に限られます(民法792条)。
これ以外にも20歳に達するまでは、従来の規制が維持されるものが以下のようにいろいろあります。成年となることを認めた趣旨からは一貫しないものがあります。
飲酒・喫煙は、従来は成年になれば可能でしたが、20歳未満の者の飲酒・喫煙は引き続き禁止されます(「二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律」1条1項、「二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律」1条)。このため法律の名称も「未成年者ノ・・・」から変更されました。
競馬・競輪・競艇なども20歳未満の者は投票権を買うことができません(競馬法28条等)。

● 少年法は改正されたが、20歳に達するまでは「特定少年」として、20歳以上の者とは異なる扱いを受ける
少年法は、「この法律において「少年」とは、20歳に満たない者をいう。」と定めています(2条1項)。このため、成人に達しても、今後も20歳までは少年法が適用されるのです。
ただし、18歳以上の少年については、2021年の少年法改正により、2022年4月1日から、「特定少年」として、17歳以下の少年とは異なる特例が適用されます。
家庭裁判所が、保護処分ではなく、懲役、罰金などの刑罰を科すべきと判断した場合に、事件を検察官に送ることを「逆送」と呼んでいます。逆送された事件は、検察官によって地方裁判所(または簡易裁判所)に起訴され、刑事裁判で有罪となれば刑罰が科されます。
特定少年については、罰金以下の刑の事件でも逆送できるようにするととともに、家庭裁判所が原則として逆送しなければならないとされる事件に、これまでの「16歳以上の少年のとき犯した故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件」に加えて、「18歳以上の少年のとき犯した死刑、無期又は短期(法定刑の下限)1年以上の懲役・禁錮に当たる罪の事件」(現住建造物等放火罪、強制性交等罪、強盗罪、組織的詐欺罪など)が追加されました(少年法62条2項2号)。
また、特定少年が逆送されて起訴された場合(非公開の書面審理で罰金等を科す略式手続の場合は除く)には、その段階から、推知報道(氏名・年齢・職業・住居・容ぼうなどによって犯人が誰であるかが分かるような記事・写真等の報道)の禁止が解除されます(少年法68条、61条)。
特定少年は、逆送されて起訴された場合の刑事裁判では、原則として、20歳以上と同様に取り扱われることとなります(少年法67条)。
特定少年の保護処分は、少年院送致(3年以下の範囲内)、2年間の保護観察(遵守事項に違反した場合には少年院に収容することが可能)、6か月の保護観察とされ、家庭裁判所が、犯した罪の責任を超えない範囲内で、いずれかを選択することとなりました(少年法64条1項、3項)。
特定少年については、将来、罪を犯すおそれがあること(ぐ犯)を理由とする保護処分は行わないこととされました(少年法65条1項、3条1項3号)。

● 自立を促進する環境を
18歳成年は、2009年の法制審議会の答申で可とされたものですが、そこでは、「現在の日本社会は、急速に少子高齢化が進行しているところ、我が国の将来を担う若年者には、社会・経済において、積極的な役割を果たすことが期待されている。民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げることは、18歳、19歳の者を「大人」として扱い、社会への参加時期を早めることを意味する。これらの者に対し、早期に社会・経済における様々な責任を伴った体験をさせ、社会の構成員として重要な役割を果たさせることは、これらの者のみならず、その上の世代も含む若年者の「大人」としての自覚を高めることにつながり、個人及び社会に大きな活力をもたらすことになるものと考えられる。我が国の将来を支えていくのは若年者であり、将来の我が国を活力あるものとするためにも、若年者が将来の国づくりの中心であるという強い決意を示す必要がある。」と改正の意義が語られていました。
一方で、日本の現実は若年者の自立の遅れを示しています。自立を支えていくためには、社会全体が若年者の自立を支えていくような仕組みを採用する必要があります。家庭、学校においても、一方でなお必要な保護をしながら、他方では、自立・自覚を進める大人扱いが求められています。

布川国賠判決確定に寄せて

2021.09.15

布川国賠判決確定に寄せて

 布川国賠を支援する会 山川清子

 9月10日、布川国賠控訴審判決が確定しました。再審請求、再審公判、国賠と続いてきた布川事件に関する裁判はこれですべて終わりました。桜井昌司さんが20歳の時に逮捕されてから半世紀を越え、桜井さんは今74歳です。この間、実に多くの方々が無実の罪で29年間獄中生活を余儀なくされた桜井さん杉山さんを支援してきました。既に亡くなられた方も多数いらっしゃいます。18年前に亡くしました夫、山川豊(東京南部法律事務所元所員)もその一人です。

 

今回、東京高裁の控訴審判決は、「警察の自白の強要」だけでなく地裁では認めなかった「検察による自白の強要」も違法で国賠法上の不法行為に当たるとしました。捜査について争いのない事実と存在する証拠をもとに丁寧に判断した結果、判決の内容は桜井さんや弁護団の当初からの主張をそのまま認めるものとなり、完全勝訴、「血のかよった」判決だ、と評されています。

ただ、今回の裁判の基礎となった証拠はすべて当初から警察・検察にありました。証拠が隠されていたのです。この点について、1審の地裁判決は一定の場合に証拠開示義務を認め証拠隠しを違法としましたが、控訴審判決は捜査の違法以外については「判断するまでもなく」不法行為になるとして一切触れませんでした。しかし、桜井さんの場合、証拠が開示されていれば確定審の段階で無罪とされたはずで、半世紀も冤罪を背負うことはなかったのです。ほかの冤罪事件でも証拠が開示されず、無実の立証を阻んでいる場合が多々あります。少なくとも再審ですべての証拠が開示されて誤判かどうかを判断する制度が望まれます。

 

桜井さんはこの春本を出版されました。「俺の上には空が広い空が」(マガジンハウス1400円税別)。この本には、「えん罪になったことは、不運ではあるが不幸ではない」「得るものがあれば必ず失うものがあり、失うものがあれば必ず得るものがある」など桜井語録が満載です。逮捕されてから、いつも明るく楽しく前向きに生きた桜井さんの精神の真髄がわかります。コロナ禍で先が見えない不安な気持ちを励まされたとの感想も寄せられています。全国の書店やAmazonで取り寄せることができますので、一読をお勧めしたいと思います。

えん罪布川事件 国賠控訴判決勝利!!

2021.08.30

弁護士 佐藤 誠一

 えん罪布川事件の元被告、桜井昌司さんが国と茨城県を被告に国家賠償請求を提訴していた件で、8月27日、東京高裁が東京地裁に引き続き、桜井さん勝利の判決をくだしました。事件は1967年茨城県で発生した金融商に対する強盗殺人事件です。桜井さんと杉山さん(故人)が共犯であったとして有罪とされ、無期懲役を服役し、1996年仮釈放になっていました。服役中から杉山さんともども再審請求にチャレンジし、2011年再審無罪が確定しました。
その後えん罪の責任は、国・茨城県にあるとして桜井さんが国賠訴訟に取り組んでいました。東京地裁は、検察側が二人の無罪の証拠を隠していたことを断罪しました。高裁はそれに加えて、警察官が、二人を被害者宅で見かけた目撃者がいる(ウソ!)、ポリグラフ検査で桜井さんの供述が全部ウソと結果が出た(これもウソ)、とか、自白したら新聞報道されないようにしてやる、とか自白しないと重罪になる(死刑!)と自白を誘導する違法な取り調べをしたこと、検察官が、否認を許さない強引な態度で違法な取り調べをしたことを断罪しました。警察官(茨城県)と検察官(国)が寄ってたかって二人を犯人に仕立て上げた、違法捜査であったことが司法の判断で明らかにされたのです。
桜井さんは警察や検察の違法を明らかにして、司法をただす取り組みとして国家賠償訴訟を提起しています。私たちは二人の再審請求や桜井さんの国家賠償請求を支援してきました。当事務所のOBである山川豊弁護士(故人)は、再審弁護団に参加し、再審開始を決定づける重要な役割を果たしました。
今、えん罪に苦しむ多くの方々がおられます。とりわけ、再審事件では、袴田事件の袴田さん(85歳)、大崎事件の原口さん(92歳)の事件が高齢であり、元気なうちに晴れて無罪の声をぜひとも聞かせて差し上げたい事件です。皆さんのご支援をお願いします。

新型コロナウイルスと東京オリンピック

2021.08.10

弁護士 佐藤 誠一

 日本人選手の活躍が著しいオリンピックです。開催に反対していた私ですが、その活躍に驚く毎日です。特に卓球の混合ダブルスには目を奪われました。そこでは「敵なし」に見えた伊藤選手が、シングルでは優勝できなかったことにも感心しました。

その一方で大変なコロナ陽性者の数です。途中の増加傾向から、7月のこの頃にはこうなるであろうという数字がそのとおりにあがっています。

これに対する菅総理の会見ですが、人流は減ってるの、高齢者が陽性者に占める割合は少ないの、とまるで気にしなくていい、とでも言わんばかりです。尾身さんが、危機意識が共有されていないことが重大な問題だと言っています。しか危機意識が乏しいのは菅総理でしょう。あの人がテレビで発言すると危機意識は減退します。菅総理は、こんな情勢でもオリンピックの中止はないと言います。しかし、「このままではオリンピックは途中中止、パラリンピック開催見合わせにならざるを得ない、皆さん最後までアスリートが活躍できるように、ご協力いただきたい」とでも言えばまた違うと思いますが、全然響く発言がないですね。

日本人選手のメダルラッシュ、と言われています。しかし、外国人選手は「バブル」と呼ばれる「選手村」に閉じ込められ、思うようなトレーニングもできないなど、ストレスフルな日々を送っています。しかし日本人選手は選手村に入らず、ホテルなどでストレスの少ない時間を過ごしていて、不平等だ、と聞きます。日本人選手のメダルラッシュは、「地の利」だけなく「コロナの利」を活かした結果だとすれば、メダルの色もさめて見えますね…。