コラム 月別アーカイブ: 9月 2022

ちょっと待って、英語スピーキングテスト(ESAT―J)

2022.09.12

弁護士 長尾 詩子

第1 英語スピーキングテストってなに?

都内では中学受験をする子も増えてはいるようですが、多くの子にとって、人生で初めてぶつかる試練は、高校受験ではないでしょうか。

そんな高校受験について、東京都は今年11月に都内全公立中学三年生に対して民間業者(ベネッセ)による英語スピーキングテスト(以下、「ESAT-J」と言います。)を実施して、それを2023年都立高校入試の合否判定に活用する準備を進めています。

どんな制度になっているかをざっくり説明しますと、

①都立高校受験を希望する都内公立中学3年生(約8万人)は、2022年11月27日(日)(予備日12月18日(日))に、東京都から委託を受けたベネッセコーポレーションがすすめるESAT-Jを受験する

②受験は、都立学校等の会場で、タブレット端末等を使用して行う。

③採点は、ベネッセの関連会社「学力評価研究機構」が行う。

④2023年1月中旬頃に、個人及び中学校にESAT―Jの結果が返却される

⑤2023年1月下旬頃から都立高校入試の出願が始まる。

⑥2023年2月下旬(今年は2月21日)の都立高校入試に、ESAT―Jの結果が活用される

 

第2 ESAT―Jの結果を都立高校入試に活用することの問題点

1 そもそもESAT―J自体に問題が多いこと

知れば知るほど問題点が出てくるESAT―Jなのですが、ざっと挙げられるだけで、以下のような問題点があります。

・問題文を読んで英語で回答をすると言えば簡単そうに聞こえますが、その回答の正解は一つではなく何パターンもあると予想されます。そのようなテストに採点ができるのかという疑問もありますが、それでも都立高校の先生方がある程度の方針を決めその方針の下に採点するなら納得もできます。しかし、ESAT―Jの場合、「学力評価研究機構」が採点するということですが、同機構はフィリピンの業者に採点を依頼するということなのです。採点基準は不明であり、本当に公正な採点ができるのか疑問です。

・テストの公正さの担保の一つとして同一時間に一斉受験することがあります。しかし、ESAT―Jは、1日のうち前半組と後半組に分けて受験することとなっていて、同一時間での受験ではないのです。

・吃音などの事情がありESAT―Jを受けることが困難な子についての申告についての周知も不十分でした。保護者に十分な周知がなく、現場は混乱しています。

・この制度導入にむけて、中学校教員にも保護者にも十分な周知がなされていません。ESAT―Jについては、都教委から2枚のプリントが配布されただけです。心配になった保護者が中学校に電話をして確認しても、教員も説明ができないような状況です。

・ESAT―Jを受験するためには、事前にベネッセのサイトにID登録する必要があります。しかし、このサイト登録についての周知も十分ではありません。

 

2 都立高校入試に活用する問題

そのような問題の多いESAT―Jですが、模試の一つという扱いであれば、まだ見過ごすことはできるでしょう。

しかし、このESAT―Jは、高校入試、しかも都立高校入試に活用されるという点が大きな問題なのです。

①都立高校入試に加算する問題点

ESAT―Jは100点満点のテストです。0~100点までの点数を、0,1~34、35~49、50~64、65~79、80~100と6段階に分けて、順番に、0、4、8、12、16、20と換算点とします(つまり、ESAT―Jで70点を採った子は16点の換算点となります)。そして、この換算点を、従来の入試の点数にオントップで足して、合否判定をするのです。

高校入試は年々に過熱していて、子どもたちは1点も争って勉強させられています。その中で、この加算ですと、ESAT―J65点採った子とESAT―J80点採った子が16点と同じ換算点を付けられること、またESAT―J64点採った子とESAT―J65点採った子は1点の違いしかないのに、換算点では12点と16点と4点も違った点が付けられること等公正とはいえない状況が出てきます。

また、従来の入試の点数の中にはもともと英語の点数20点が入っている上に、さらにオントップでESAT―Jの点数20点を足すことになるので、英語だけ他の教科の倍の得点となってしまうのです。

②不受験者の問題

上記のとおり、ESAT―Jを受験できるのは、都内公立中学校の子どもたちだけです。言い換えれば、私立中学校や都外中学校の子ども達は、ESAT―Jを受験できません。

では、このような不受験者にはどうするかといえば、2月に実施する英語学力検査(筆記試験)の得点から、所定の方法で、仮のESAT―Jの結果を推定して加算することとなっています。

つまり、受験していないにもかかわらず、スピーキングテストの結果を筆記テストから推定されて、得点が付けられることとなるのです。

③現場の混乱

今、中学校では、遅くとも前年12月には担任との面談が終わり、志望校を確定して、担任に入試のための書類を作成してもらって、1月下旬に都立高校受験の出願をします。1月中旬にESAT―Jの結果が返却され、その結果が思ったより悪くて志望校を変更することを検討し始めたとしても、子どもが担任と面談する等して十分に納得して変更することは困難です。ダメだと思いながら高校受験、しかも1校しか受験できない都立高校の受験をするというのは、子ども達にとって大変きついことです。

④GTECCore実施で湧かれる区市町村

ベネッセは、ESAT―Jと非常に似ている形式のGTECCoreというテストを実施しています。そして、都内の区市町村のうちたった9箇所だけが、全校でこのGTECCoreを実施しています。ちなみに、大田区は実施していません。

スピーキングのような慣れを必要とするテストにおいては、同じ事業者が作成する同様のテストを受けたか受けていないかは、結果に大きな影響を与えることは必至です。

しかし、住んでいる区によってその同様のテストを受けているか否かが違ってくるのです。

住んでいるのが大田区だったから慣れていなくても仕方がないよと、不合格になった子に、言えるでしょうか。

⑤2023年に高校受験する子どもたちは、2020年4月に中学に入学しています。ご存じのとおり、2020年4月は新型コロナ感染拡大防止のため、子どもたちはマスクをして登校し、大きな声では話さないことを徹底してきました。中学校の授業では、スピーキングをあまりできていないのです。

 

第3 子ども達の未来のために

高校受験という人生での初めての試練の場では、不合格は、とても辛いものです。それでも、その子自身の努力不足であったならば仕方がないと納得できるかもしれません。しかし、ぱっと思いつくだけで上記のようにたくさんの問題点があるESAT―Jの都立高校入試への活用もあっての不合格では、決して子どもたちは納得できないでしょう。これからの子どもたちに、そんな思いをさせたくないと心から思うのです。

しかし、まだまだこの問題は知られていません。7月からIDの登録(個人情報の登録)では混乱のまま進められています。そんな中、保護者が都立高校入試英語スピーキングテストに反対する保護者の会を設立し、このテストの中止、見直しを求めていくために活動を始めています。

・都立高校スピーキングテストの問題点を周りの方に広めてください。

・中止の電子署名にご協力ください。(Change.org 都立高校入試へのスピーキ

    ングテスト導入の中止を求めます!

・Twitter、FacebookなどSNSでスピーキングテストの情報をフォロー、拡散

してください。・#ESATJは止める #ESATJは中止 #スピーキン

グテストのハッシュタグを使ってください。

・保護者の会のtwitterアカウントをフォローしてください @hogosha20221127

・保護者の会が集めているアンケートにご協力ください

英語スピーキングテストの都立高校入試活用に関するアンケート

https://forms.gle/VF9AydrmumK3MumV7

・9月15日都議会文教委員会でスピーキングテスト中止を求める請願が審議さ

れます。傍聴をお願い致します。

・各地域の区議会、市議会にスピーキングテストの中止を求める請願、陳情を出

してください。

・保護者の会のオンライン署名にご協力ください。 スピーキングテストチラシ

 

これからの人生を歩んでいく子どもたちを「大人の都合」で泣かせないために、

どうぞあなたの力を貸してください。

 

参考記事

https://www.asahi.com/edua/article/14706776

https://dot.asahi.com/aera/2022021500048.html?page=1

https://toyokeizai.net/articles/-/590086

以上