コラム
月別アーカイブ: 6月 2017
2017.06.19
当事務所の黒澤有紀子弁護士と安原幸彦弁護士が担当した事件で勝訴判決を獲得しました。判決は、判例時報2328号129頁、労働判例1152号13頁に掲載されています。
1 事案の概要
被告である尚美学園は、その専任教員の定年を就業規則上、満65歳としていました。そのうえで、定年退職した専任教員を特別専任教員として雇用する旨の規程及び長年の例外なき再雇用の前例もありました。特別専任教員の契約期間は1年間であり、契約更新は70歳を限度とされています。原告である労働者は、専任教員として採用されましたが、採用の申込みを行う前に、被告から、65歳を超えると70歳まで総報酬が従前の7割になるものの、職務内容等の労働条件は変わらず、70歳まで雇用保障がされているとの説明を受けました。原告は、この説明内容にメリットを感じ、それが確実に履行されるものと信じて、被告に転職することを決意し、前職に退職願を提出しました。
しかし、被告は、原告が65歳で定年となった後、採用前の説明及び原告の希望にもかかわらず、所属する学部で初めてのケースとして、特別専任教員として再雇用することを拒否しました。原告は、特別専任教員としての労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるなどして、東京地方裁判所に訴えました。なお、原告は、労働組合の副執行委員長です。再雇用拒否に当たり、労働組合への協議はありませんでした。
2 事件で問題となった点
この事件は、65歳定年制を採用する使用者において、定年後再雇用制度を定め、採用前に再雇用する旨の説明が行われ、かつ、就業規則の運用として従前は希望した全員が例外なく再雇用されていた場合、定年退職した労働者に再雇用後の地位が認められるかが争われました。この事件で難しいのは、定年によって一旦退職しているとされることです。つまり、再雇用は、形式的に見ると新たな雇用であり、使用者の裁量権の範囲内と位置づけられかねません。定年後再雇用の事案においては、有名な津田電気計器事件(最判平成24年11月29日労判1064号13頁)がありますが、これは60歳定年の事件であり、高年法9条1項2号所定の継続雇用制度を導入した事案だったことが大きな特徴でした。今回の事件は、65歳定年制を採用している使用者(大学)における再雇用ということで高年法は適用外の事件です。そういった場合に、労働者(教員)に再雇用後の地位を確認できるのかが争われた事件でした。
3 65歳定年制で再雇用拒否を無効とする画期的判決
東京地裁は、以上の争点について、以下のように判示しました。
「労働者において、定年時、定年後も再雇用契約を新たに締結することで雇用が継続されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合、使用者において再雇用基準を満たしていないものとして再雇用をすることなく定年により労働者の雇用が終了したものとすることは、他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情がない限り、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、この場合、使用者と労働者との間に、定年後も就業規則等に定めのある再雇用規程に基づき再雇用されたものと同様の雇用関係が存続してきるものとみるのが相当である(労契法19条2号類推適用、最高裁平成23年(受)第1107号同24年11月29日第1小法廷判決・裁判集民事242号51頁参照)。」本件事実関係の下においては、「定年時、本件再雇用契約を締結し、70歳まで雇用が継続すると期待することが合理的である。」「確かに、本件は、高年齢者雇用安定法の適用のない事案ではあるが、労働者に雇用継続への合理的期待が生じた場合、その期待を法的に保護し、期間満了による契約の終了に制約を課すという労契法19条2号の趣旨は、本件のような定年後再雇用においても妥当するといえる。ただし、定年後再雇用の場合、直近の有期労働契約が存在しないため、従前と同一の労働条件で労働契約が更新されると擬制することができない。したがって、同条を類推適用し、本件規程が定める再雇用制度に基づく労働契約上の地位にあるものとみなすのが相当である」。
東京地裁は、原告の主張を認め、労働契約法19条2号の類推適用という新たな法律構成を採り、原告の特別専任教員としての地位を認めたのです。65歳定年制を前提とする再雇用事案において、再雇用後の地位を認めた判決であり、高齢者雇用について非常に重要な判決と言えます。
2017.06.15
6月14日から夜通し審議が続いた参議院本会議で、15日午前7時46分、政府与党の自民党・公明党そしてその補完勢力である日本維新の会3党は、共謀罪の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法の採決を強行した。これにより反対世論を押し切って、「共謀罪」法が成立した。
共謀罪法案は、法案提出前後を通じ衆参両院で議論されながら、担当法務大臣はろくな答弁ができず、法案の疑問点、問題点はなんら解決することはなかった。対象犯罪となる277の罪についてなぜ共謀を取り締まるのか、その必要性すら明確にならなかった。一番注目された、一般人はこの法律による取締の対象になるのか、という点でも政府の答弁は、イエスなのかノーなのか判然とせず終わった。処罰要件の準備行為も日常的な行為がそのまま準備行為とされる余地があり、要件としての無意味であることが明らかとなった。まだまだ国会で審議を尽くすべきことは多々あった。しかし政府は国民の徹底審議を求める声に背を向けて、採決を強行した。そのことだけでも許されない。
しかし今回はそれだけでなく、国会法を濫用して、所管の法務委員会での採決を省略し、本会議で委員長に中間報告させるだけでの強行採決であったことは特に重大である。この国会法の規定は、「特に緊急を要する」あるいは「特に必要」な場合の規程で、共謀罪はこれに当たらない。委員会での採決を省略するなど、これは議会制民主主義の否定であり、良識の府、熟議の府と言われる参議院にあっては存在意義を自己否定するにも等しい暴挙である。
私たちは政府与党の一連の行動に強く強く抗議するものである。
国会が会期末を控え、審議の時間が足りないのであれば、会期を延長すればよい。都議選が控えているとはいえ、国政選挙でない以上会期延長の妨げとはならない。しかし会期を延長しなかったのは、安倍首相に対する加計学園問題のこれ以上の責任追及を避けるためであったことは明白である。共謀罪法案の早期成立と安倍首相責任逃れと二重の狙いがあった強行採決であった。
私たちはこうした党利党略で議会制民主主義のルールを破る政府与党及びその補完勢力の暴挙はいっそう許すことはできない。
私たちは引き続き共謀罪の廃止を求めて奮闘する決意である。同時に今後予想される安倍内閣の憲法9条改悪の動きに対しても、断固として闘う決意である。
以上声明する。
2017年6月15日
東京南部法律事務所