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他人事ではない日本学術会議会員就任拒否

2020.10.24

日本学術会議6名の会員就任拒否は、私にとって他人事ではない。
行政法学の岡田さんは大学時代からの友人。加えて刑事法学の松宮さん、憲法学小澤さん、私も含め多くの弁護士がたいへんお世話になっている。その皆さんの一大事である。
研究会の講師を務めてもらったが、なによりも私どもが担当する訴訟で、裁判所宛に意見書を作成してもらい、学者証人として法廷で証言してもらったこともある。大学教員は、研究や大学での授業のほか、学生や受験生の試験の作問・評点など多忙である。なかなか協力してもらえる学者は少ない。特に国立大学はだめ。私立大学教員か、国立大学を定年で退官したり私立に移籍しないとだめ。今回のことがあると、断られる理由が忙しいだけではないと理解できる。こういうことだったのか、と。
協力をお願いするのは、刑事裁判や行政裁判、国を相手にする裁判で、国を批判する意見書・証言を頼む。もちろん普段の研究のスタンスに沿ってやっていただく。やらせではない。そうした皆さんが就任を拒否された、政府に意見をする、批判をする、政府と異なる見解を披露する、だから菅政権に拒否されたと思わずにいられない。
またこの皆さんは、共謀罪や安保法制など、政府の施策に反対する運動をご一緒いただいた。政府に気にくわない立場の研究や取り組みをしていることが拒否の理由としか考えられない。
ところでこの共謀罪は多くの刑事法学者・憲法学者がこぞって反対の意見表明をした。安保法制は憲法学者・行政法学者が同様に反対の意見表明をした。特に憲法学者は、反対と賛成と、どっちが多いかマスコミでも話題にもなった。安倍政権で官房長官を務めた菅さんにしてみれば、煮え湯を飲まされた気分だったろう。彼は学者が嫌いになったんだろうな。
学術会議は、さまざまな問題で、政府に勧告や提言を行う。場合によっては政府の施策に注文を付ける場合もある。お目付役である。だからこそ、イエスマンであってはならない。内閣は学術会議の職務に口を挟んではいけないと法律が保証する必要がある。
学術会議の勧告や提言は、科学者の立場から、科学者の専門性に基づいて行われるのは当然。科学者の立場から、科学者の専門性に内閣が口を挟むのは能力を超えている。できるはずがない。だから、会員の資格である「優れた研究又は業績がある科学者」かどうかは学術会議が判断して、総理大臣に推薦する。総理大臣にその当否が判定できるわけがない。
会員の任命規定について、多くの声明・意見書が取り上げるが、任期途中でやめたいという会員をやめさせるには学術会議の同意が必要、問題行動のある会員をやめさせるのも学術会議の申出による必要があることは紹介されていない。ここまで身分保障にあつい役職も少ない。
菅さんは、学術会議の予算10億円をしばしば口にするが、「無駄」の象徴である、あのアベノマスクには466億円が用意された。学術会議の46年分である。10億円も会員一人の手当は年間21万円、月額2万円もない。1回の会議に出れば交通費でおしまいである。せめてアベノマスク程度の予算を付けてから何か言ってほしいな、菅さんよ。

弁護士 佐藤 誠一