コラム 月別アーカイブ: 5月 2019

誰のためのオリンピック?? ~オリンピック選手村住民訴訟~

2019.05.29

 東京オリンピックの観戦チケットの抽選申込販売が本日で締め切りですね。4年に1度の祭典であり、日本での開催は1998年の長野オリンピック以来22年ぶり、夏季オリンピックは1964年の東京オリンピック以来56年ぶりですから、大いに盛り上がることでしょう。
 他方で、JOC会長である竹田氏の贈賄疑惑が報道されたり、当初7000億円だった予算が会計検査院の調査では3兆円まで膨れ上がる可能性が指摘されたり、それなのに多くのスタッフをボランティアで集めようとしていたり、とお金の問題も数多く取沙汰されています。
 私の取り組んでいるオリンピック選手村住民訴訟も、オリンピックとカネをめぐる問題の一つです。5月16日にも裁判期日があり、一部メディアで取り上げていただきました。
この訴訟は、銀座にもほど近い晴海の東京都有地(約13.4㌶、東京ドーム3個分)が、選手村として使用するという口実のもと、1㎡当り10万円程(総額約129億円)で大手ディベロッパー11社に払い下げられたことが不当である、として訴えている訴訟です。
この土地にディベロッパー11社が選手村として使用するための建物を建て、オリンピック・パラリンピック期間中は東京都に貸し出して選手村として使用し、オリンピック・パラリンピック終了後は、マンションとして分譲したり賃貸したりするのです。最近、「HARUMI FLAG」としてホームページも設置され、説明会も行われているようです。
原告側が10月に裁判所に提出した不動産鑑定士による鑑定書では、土地価格は1㎡当り100万円(総額約1600億円)を超えています。つまり、9割以上も値引きしているのです。その理由として、東京都は、選手村として使用するために開発スケジュールが定められていることなどを理由にしています。しかし、いくら何でも安すぎではないでしょうか。
しかも、この土地は、全てを選手村として使うわけではありません。一部の土地は、タワーマンションを建設するための用地です。また、土地の引渡し前に東京都は約540億円をかけて基盤整備を行い、大会終了後は約450億円をかけて建物内装の解体工事を行います。さらに、所有権の移転時期は先に設定されておりディベロッパーはそれまで固定資産税を支払う必要もないですし、大会期間中はオリンピック組織委員会から家賃を支払われます(38億円)。ここまで至れり尽くせりなのに土地代金は9割引きです。
 このような安価での土地払い下げは、本来であれば都議会できちんと議論すべきです。しかし、この土地払下げについては、都市再開発法を使って、都議会での決議を省略しているのです。その上、東京都は、土地価格を決定した根拠である調査報告書(「鑑定書」でもないのです。)もほとんど黒塗りにして全面開示は拒んでいます。
 一体誰のためのオリンピックなのでしょうか。私たちはせめて都民の財産を不当に支出することは止めてほしい、という思いで訴訟に取り組んでいます。主体となっているのは、「晴海選手村土地投げ売りを正す会」の方々です。会員も募集していますので、気持ちよくオリンピックを開催するためにも、ぜひご支援ください。
弁護士 大住 広太

ハンセン病国家賠償訴訟

2019.05.29

1 「1番だけが知っている」
 4月29日にTBS系列「1番だけが知っている」というテレビ番組で、ハンセン病国家賠償訴訟が取り上げられました。弁護団の一員だった私も、ほんの脇役ですが出演したこともあって、多くの方から感想やご意見をいただきました。せっかくの機会でもありますので、ハンセン病国家賠償訴訟についてご紹介させていただきます。
2 ハンセン病とは
 ハンセン病はかつて「らい病」と言われていました。「らい菌」という細菌の感染によって末梢神経を冒される病気です。しかし、らい菌は,感染力も発症力も弱く、1943年には特効薬が開発され、容易に治る病気になりました。
3 ハンセン病隔離政策
 ハンセン病に関しては、1907年に「癩予防ニ関スル件」という法律が制定され、1953年には「らい予防法」と名称を変えました。そして、1996年3月に廃止されるまで、らい予防法に基づく患者隔離が国の政策として行われてきました。具体的には、国が地方自治体に指示して患者を捜し、見つけると強制的に隔離施設に収容し、終生そこに隔離するのです。
 その目的は、広く国民に伝染することを防止するためでもなく、患者を治療するためでもありません。ハンセン病患者の存在を国の恥として、患者を社会から見えないようにしてしまうことを目的としているのです。赤痢や結核の患者隔離とは全く異なります。
4 隔離された療養所ではこんなことが行われていた。
 療養所では、患者に対する様々な人権侵害がありました。今、旧優生保護法のもとでの強制不妊手術被害者の救済法が話題になっていますが、療養所では正に、患者に対する断種・堕胎が日常的に行われていました。また、患者に労働を強制し、そのため、多くの患者が病状を悪化させました。国民も患者狩りに動員され(無らい県運動)、社会の中にハンセン病に対する根強い差別と偏見が生まれました。
 つまり、ハンセン病隔離政策は、①患者に「有害・無益な人間」という烙印を押し、②家族を含めた厳しい偏見差別にさらして地域で孤立させ、③家族や社会との絆を奪い、④治療も放棄し、強制的に労働させ、人体実験の道具にする、など信じがたいような人権侵害が国の手で行われていたのです。
5 ハンセン病国家賠償訴訟
 (1) 訴訟の目的
 らい予防法は1996年に廃止され、それによってハンセン病隔離政策には終止符が打たれましたが、同時に、こうした人権侵害の実態も闇に葬られようとしていました。それを打ち破り、被害の回復や再発防止のための恒久的な政策の策定を実現することを目的として、1998年7月、ハンセン病隔離政策の責任を問う国家賠償訴訟が熊本地裁に提起されました。
 (2) 熊本地方裁判所の判決(2001年5月11日)
 判決は、原告全面勝訴・国完敗の内容でした。裁判所は以下のように判断しました。
①らい予防法に基づくハンセン病隔離政策は、遅くとも、1960年には憲法違反の人権侵害であった
②1965年までに「らい予防法」を廃止しなかった国会の怠慢は憲法違反であった
 (3) 控訴断念
 国はこの判決に控訴しませんでした。冒頭ご紹介した「1番だけが知っている」はその時の弁護団の取り組みを紹介した番組です。
 法律を憲法違反と断じた判決が1審で確定したという例はそれまでもありませんでしたし、その後もありません。そうした異例中の異例の事態に至ったのは、何と言っても被害者であるハンセン病元患者に、「何とかこの判決を守りたい。そのためには何でもやる。」という強い要求と決意があったからです。それを受けて、私たち弁護団もあらゆる取り組みをしました。当時の坂口厚生大臣を味方に引きこんだり、官邸前に毎日押しかけて飯島秘書官に迫ったり、一方で当時の小泉総理に直接のパイプを作ったりしました。そして、官邸筋もマスコミも「控訴必至」と流している中で、小泉総理の控訴断念の判断を引き出したのです。
6 その後の取り組み
 控訴断念後も、被害者と弁護団の被害救済・再発防止に向けた取組みは続いています。2016年には家族被害の補償を求める訴訟が提起され、6月28日に判決が言い渡されます。是非注目してください。これを契機に、皆さんにハンセン病問題への関心を深めていただければ幸いです。
弁護士 安原 幸彦