コラム
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2016.07.20
一、7月10日投票の参議院選挙では、自民が56、公明が14、おおさか維新が7、の議席を獲得して合計77、非改選議席と合わせて161議席。改憲派の非改選の無所属議員4を加えると、改憲勢力が参議院の定数242議席の3分の2である162議席を上回る結果となりました。
安倍首相は、この選挙戦の期間中、街頭演説で改憲について一言も触れなかったのにもかかわらず、この投票結果が出るや、改憲に向けて、衆参両院の憲法審査会でこの秋から審議を進めると言明。彼の「悲願」である党総裁任期中の改憲を彼一流の強引さで推し進めて来ると思われます。
安倍首相の自民党総裁の任期は、(規約改正などが無ければ)18年9月。衆議院の任期満了は18年12月です。国民投票は国会の発議があってから60日ないし180日以内とされていますが、初めての憲法改正国民投票だから180日は取る必要があるとの見方が強く、そうすると、この秋から1年半くらいの内には国会の発議を目指してくる可能性が大きいと言えましょう。日本国憲法にとって、深刻な事態です。
二、しかし、そうした安倍さん達の目論見はそう簡単に実現できるものではありません。
なんといっても、2/3を超えたと言っても、ギリギリのものでしかありません。また、公明党と安倍さん達とは改憲に向けての温度差がかなりあります。公明党の山口代表は、「(改憲について)各党の合意形成の手がかりも全くない状況だ。慌てないで議論をやっていくべき」と述べていますとおり、この発言は公明支持層の意識を反映ものと見て良いでしょう。また、「改憲派」といっても各党が主張する内容はまちまちで大きく違います。
そして何よりも大きいのは、世論とのねじれです。共同通信の投票所の出口調査では、安倍政権下での改憲に賛成は39.8%、反対50%、無回答10.2%。農業を基幹産業とする東北6県の1人区で自民は1勝(秋田)しかできませんでした。福島、沖縄では現職閣僚が落選し、鹿児島知事選では、脱原発派が当選しました。沖縄基地建設、原発推進、アベノミクス、TPP、戦争法、立憲主義破壊等々、どの世論調査を見ても安倍の政策は国民の支持を得てはいません。
こうした状況の中で、この秋から1年半くらいの内に国会発議にまで持ち込むのは、決して楽ではなく、世論が更に広がれば改憲勢力に動揺をもたらすことは必至です。
三、他方、立憲勢力は、民進、共産、社民、生活の4野党が史上初めて野党共闘を組み、32の1人区の全てで統一候補を立てて、11選挙区で野党側が勝利しました。この野党共闘がなかったら、結果は改憲派がさらに多くの議席を手にしたであろう事は明らかです。
今回の選挙は、単に4野党が共闘したということだけではなく(それだけでも画期的なのですが)、その共闘が、市民運動の拡がりが野党の背中を押して作った、「野党共闘+市民運動」の共闘だったことに極めて大きな意味があります。
原発反対運動、秘密法反対運動の拡がりからこの方、戦争法反対の大きな市民運動の中で、新しい市民達が次々と運動に参加し、若者、学者、ママ、弁護士等々等々の運動の輪が全国に拡がり、それが野党の背中を押して野党共闘が形作られてきました。そして、選挙も市民運動が野党と共に一緒に選挙に取り組んみました。まさに画期的な状況でした。
前述の1人区の選挙結果は、この「野党共闘+市民運動」の大きな効果を示しています。2013年の参議院選挙の時には、当時31の一人区で非自公はわずかに2議席。民主党全盛の2010年参議院選挙の時ですら当時29選挙区のうち8議席でした。それに比べると、今回の11議席という数字の大きさがわかります。そればかりか、1人区で、「野党統一候補の得票数/野党4党の比例の得票数」(=共闘達成率)は、全32選挙区平均で120%。100%以上は28選挙区。つまり、「1+1が2ではなく3にも4にもなる」と言う共闘効果が発揮されています。この「野党共闘+市民運動」を更に拡げることの中にこそ、憲法の破壊、改憲を阻止する展望があると言えましょう。
しかし他方、改憲勢力に2/3の議席を許してしまったことも事実です。世論調査を見ると、安倍政権の個々の政策は国民の支持を得てはいないにもかかわらずこの結果です。「アベノミクス」への幻想を未だ十分に払拭出来なかった。戦争法や立憲主義破壊の危険性、野党共闘の共通政策はまだまだ国民に浸透しなかった。また、野党共闘体制は、まだまだ安倍政治批判の受け皿に十分なりきれなかった、ということでしょう。
四、「野党共闘+市民運動」の共闘は日本の歴史の中でも初めての経験です。それが、今回それなりに大きな具体的成果をもたらしました。しかしこの共闘は、まだまだ始まったばかりであり、未成熟で初歩的なものです。それは、衆議院選挙(今回は同日選挙は回避されましたが)、政権交代まで視野に入れた共通政策と共同の体制の構築にまで至っていません。
したがって、この市民の運動を更に拡げ、発展・深化させること。その力で野党の背中を更に押して、政権を争う衆議院選挙に向けて共通政策と共同の体制の構築を目指すこと。そうしてこそが憲法の破壊、改憲を阻止する展望が寄り大きく切り開かれると思います。
私たち南部事務所の所員も、大田の地域で、それぞれの持ち場で、戦争法廃止、憲法改悪阻止のためにがんばりたいと思います。これからもよろしくお願い致します。
弁護士 海部 幸造