2022年4月1日より成年年齢が18歳に引き下げられました

18歳で成人に

                             弁護士 塚原 英治

2018年になされた民法の改正が2022年4月1日に施行され、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。これに伴い様々な法律が改正されています。簡単に見ておきましょう。

● 18歳成人は世界の常識
成年年齢は各国とも選挙権が行使できる年齢や兵役に服する年齢に合わせて定められるのが通常であり、OECD(経済協力開発機構)が2016年にまとめた資料によれば、35の加盟国のうち32の国で18歳とされていました。これより高いのは19歳の韓国と20歳の日本、ニュージーランドだけでした。アメリカは州によって異なり、18歳が45州、19歳が2州、21歳が3州でした。
日本では、2007年制定の日本国憲法の改正手続に関する法律3条が、18歳で投票権を与え、附則で18歳選挙権についての検討・措置を定めたことから、選挙年齢については一足先に議論が進み、2016年6月から18歳に引き下げられていました(2015年の公職選挙法改正)。
裁判員裁判の裁判員の資格は「衆議院議員の選挙権を有する者」と定められているので(裁判員法13条)、18歳で選挙権が認められたときに資格が与えられるべきでしたが、2015年の公職選挙法改正法の附則10条で、「当分の間」職務に就くことができないとされていました。後述の2021年の少年法改正の際にこの附則は削除され、18歳から裁判員として職務に就くことが可能になりました。名簿作成の関係で、裁判員候補の通知が来るのは2023年以降になります。

● 成年になると何が変わるのか
民法818条1項は「成年に達しない子は、父母の親権に服する。」と定めています。
これまで未成年者の婚姻(男は18歳、女は16歳以上から可能とされていた)には親の同意が必要でしたが(改正前民法737条)、婚姻年齢は男女とも18歳に統一され(民法731条)、18歳で成人になるので、親の同意なく婚姻することが可能になりました(民法737条は無意味な規定になったので削除されました)。
未成年者は、取引の能力が一般的に低いことから、これを保護する必要があるとされています。そこで、民法5条は、1項で、「未成年者が法律行為(注:契約など)をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。」、2項で「前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。」、3項で「第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。」と定めています。
未成年者が不利な契約をしたときは法定代理人(親権者=親、または未成年後見人)が取り消せる仕組があるのです。
成年になると一人で契約をすることができる代わりに、責任も負うことになります。
若者は経験が乏しく悪質商法などの被害に遭いやすいために、消費者被害の防止策が求められています。
成年者に限られている資格、例えば公認会計士、行政書士、司法書士などは、18歳でも取得可能になります(公認会計士法4条1号など)。もちろん試験に合格する必要があります。
日本国籍の外に外国の国籍も有している場合、「外国及び日本の国籍を有することとなった時が18歳に達する以前であるときは20歳に達するまでに、その時が18歳に達した後であるときはその時から2年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。」とされ、従来より2年早まりました(国籍法14条1項)。18歳が成年年齢であることにリンクしたものです。外国人が日本に帰化できる年齢も18歳以上で認められることになりました(国籍法5条1項2号)。

● 従来成年に認められていたが、20歳未満ではこれからも認められないものがある
これまで、成年に達した者は養子を取る(養親になる)ことができましたが、18歳では適当ではないとの考えから、養親になるのは20歳に達した者に限られます(民法792条)。
これ以外にも20歳に達するまでは、従来の規制が維持されるものが以下のようにいろいろあります。成年となることを認めた趣旨からは一貫しないものがあります。
飲酒・喫煙は、従来は成年になれば可能でしたが、20歳未満の者の飲酒・喫煙は引き続き禁止されます(「二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律」1条1項、「二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律」1条)。このため法律の名称も「未成年者ノ・・・」から変更されました。
競馬・競輪・競艇なども20歳未満の者は投票権を買うことができません(競馬法28条等)。

● 少年法は改正されたが、20歳に達するまでは「特定少年」として、20歳以上の者とは異なる扱いを受ける
少年法は、「この法律において「少年」とは、20歳に満たない者をいう。」と定めています(2条1項)。このため、成人に達しても、今後も20歳までは少年法が適用されるのです。
ただし、18歳以上の少年については、2021年の少年法改正により、2022年4月1日から、「特定少年」として、17歳以下の少年とは異なる特例が適用されます。
家庭裁判所が、保護処分ではなく、懲役、罰金などの刑罰を科すべきと判断した場合に、事件を検察官に送ることを「逆送」と呼んでいます。逆送された事件は、検察官によって地方裁判所(または簡易裁判所)に起訴され、刑事裁判で有罪となれば刑罰が科されます。
特定少年については、罰金以下の刑の事件でも逆送できるようにするととともに、家庭裁判所が原則として逆送しなければならないとされる事件に、これまでの「16歳以上の少年のとき犯した故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件」に加えて、「18歳以上の少年のとき犯した死刑、無期又は短期(法定刑の下限)1年以上の懲役・禁錮に当たる罪の事件」(現住建造物等放火罪、強制性交等罪、強盗罪、組織的詐欺罪など)が追加されました(少年法62条2項2号)。
また、特定少年が逆送されて起訴された場合(非公開の書面審理で罰金等を科す略式手続の場合は除く)には、その段階から、推知報道(氏名・年齢・職業・住居・容ぼうなどによって犯人が誰であるかが分かるような記事・写真等の報道)の禁止が解除されます(少年法68条、61条)。
特定少年は、逆送されて起訴された場合の刑事裁判では、原則として、20歳以上と同様に取り扱われることとなります(少年法67条)。
特定少年の保護処分は、少年院送致(3年以下の範囲内)、2年間の保護観察(遵守事項に違反した場合には少年院に収容することが可能)、6か月の保護観察とされ、家庭裁判所が、犯した罪の責任を超えない範囲内で、いずれかを選択することとなりました(少年法64条1項、3項)。
特定少年については、将来、罪を犯すおそれがあること(ぐ犯)を理由とする保護処分は行わないこととされました(少年法65条1項、3条1項3号)。

● 自立を促進する環境を
18歳成年は、2009年の法制審議会の答申で可とされたものですが、そこでは、「現在の日本社会は、急速に少子高齢化が進行しているところ、我が国の将来を担う若年者には、社会・経済において、積極的な役割を果たすことが期待されている。民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げることは、18歳、19歳の者を「大人」として扱い、社会への参加時期を早めることを意味する。これらの者に対し、早期に社会・経済における様々な責任を伴った体験をさせ、社会の構成員として重要な役割を果たさせることは、これらの者のみならず、その上の世代も含む若年者の「大人」としての自覚を高めることにつながり、個人及び社会に大きな活力をもたらすことになるものと考えられる。我が国の将来を支えていくのは若年者であり、将来の我が国を活力あるものとするためにも、若年者が将来の国づくりの中心であるという強い決意を示す必要がある。」と改正の意義が語られていました。
一方で、日本の現実は若年者の自立の遅れを示しています。自立を支えていくためには、社会全体が若年者の自立を支えていくような仕組みを採用する必要があります。家庭、学校においても、一方でなお必要な保護をしながら、他方では、自立・自覚を進める大人扱いが求められています。