平成30年12月16日、気鋭の憲法学者青井未帆先生、SEALDsの中心的メンバーであった諏訪原健さん、「憲法君」のネタで有名な風刺芸人の松元ヒロ氏が、城南の地に結集しました。五反田法律事務所、東京南部法律事務所、城南保健生活協同組合、東京南部生活協同組合、東京民主医療機関連合会西南ブロックの5団体が主催の、憲法こそたからものpart2が開催されたのです。
わたくし菊地がこの豪華なイベントに潜入してきましたので、みなさまにこっそりご報告致します。
青井先生のお話で最初に印象的だったのは、誰に何を語りかけるかということです。
青井先生によれば、選挙の際の選挙民の関心事について統計を取ると、選挙民が強い関心を持っているのは経済や景気、福祉の問題で、憲法の問題への関心は最下位となるそうです。
そうであれば、憲法を守る勢力を選挙で当選させるためには、敢えて憲法のことには触れず、経済や景気、福祉の対策を語ってもらうことも必要になるのかもしれません。
また、若年層になるほど安倍政権を支持し、特に女性より男性の方が安倍政権を支持する比率が高いそうです。
どうやら私たち護憲派は、まだまだ若者の心に触れることができていないようです。どうしたら私たち護憲派の言葉が若者の心に届くのか、よくよく考えなければならないようですね(なお、某法律事務所の菊地とかいう弁護士が若者の現状と若年層へのリーチの手法について盛んに研究しているそうなので、講師に呼んでみるとそのへんよくわかるかもしれません)。
次に、9条の問題では、自衛隊を憲法に書き込むことの意味というお話が強く印象に残りました。
青井先生によれば、現在憲法に明記されている国の機関は5つしかありません。即ち、参議院、衆議院、内閣、最高裁判所、そして会計検査院です。会計検査員以外は、立法・行政・司法の三権を統率する機関です。会計検査院は行政の機関ですが、会計検査院法第1条で「内閣に対し独立の地位を有する。」と書かれており、独自の地位を有するため、特に憲法に記載されているそうです。
このように、基本的に三権を統率する機関しか書かれていない憲法に自衛隊を記載するとどうなるか。自衛隊が三権と並ぶような独自の地位を得たという解釈がなされ、自衛隊に行政の枠組みを超えるような特権が与えられることになるのではないか。これが、青井先生の問題意識です。
ただでさえ完結性・自律性が高く独自の指揮系統で動ける武装集団です。ただでさえ防衛予算は年々拡大されています。そのような状況で自衛隊に三権と並ぶような独自の地位が与えられたと解釈がなされれば、自衛隊は三権による統治の外に君臨する「もう一つの国家」なってしまうというのです。
「自衛隊を憲法に明記しても何の影響も出ない」なんて大ウソ、真実っておそろしいですね。
諏訪原健さんのお話で最も印象に残ったのは、選挙で勝たなければ安倍政権を倒すことはできない、という言葉です。
諏訪原さんはいうまでもなく、路上の運動をリードしラップ調のコールアンドレスポンスという新しいコールを作り出したSEAIDsの中心メンバーであり、いわば「ストリートのカリスマ」です。そんな諏訪原さんの口から、街頭での市民運動よりも選挙で勝つことが大事だ、という趣旨の言葉が出たので、びっくりしてしまいました。
しかし、お話をよくよく聞いてみると、深く納得しました。
すなわち、安倍政権は国民の声に真摯に耳を傾けず、街頭の声を無視する。それどころか、街頭に立つ市民の声をあざ笑うように、沖縄の海に赤土を流し込む。そんな安倍政権を倒すには、選挙で勝つしかない、ということでした。
誰よりも多く街頭に立って誰よりも大きく声を上げてきた諏訪原さんだからこその、冬は凍え夏は汗まみれになって見いだした、最前線の現場からのご見識というべきでしょう。そうであれば私たち護憲派も、やみくもに街頭で運動をするのではなく、選挙に勝つための戦略を持って勝てる闘いを展開しなければなりません。
諏訪原さんのさりげない一言は、護憲派にとって重要な課題を投げかけたものだと、私は解釈しました。
みなさんは、どう感じましたか?
最後に、松元ヒロさんの舞台について。
突飛なことを申し上げますが、どうかお許しください。
舞台には、舞台の神様がいます。
厳しい訓練に耐えた特別な人だけが、舞台の神様に微笑みかけてもらうことができます。そして、舞台の神様に微笑みかけられ祝福された人だけが、スポットライトの下で、全然別の存在になることができます。「演ずる」というのはそういうことです。私も昔、緞帳の陰を横切る舞台の神様のドレスの裾を一瞬だけ目にしたことがあるので、そのことを知っています。
ヒロさんのネタ「憲法くん」を演じているとき、ヒロさんはヒロさんではありません。私たちが目にしているのは、ヒロさんではなく、「憲法くん」その人なのです。
日本で生まれ、アメリカの血が少しだけ入っていて、戦後70年間、日本を見守ってきてくれた「憲法くん」。悲しい事件も沢山あったけど、一生懸命未来というものを信じて生きてきた、この国の戦後史に寄り添ってきた「憲法くん」。「最近、みっともないだとか変えるべきだって言われちゃうんですよ」と寂しそうに呟いているのは、ヒロさんではなく、性は日本国、名前は憲法、の憲法くんなのです。
八王子や山口のお話で笑った後、最後の10分間、「憲法くん」を見ている間中、私は涙が止まりませんでした。憲法くん、戦後日本をずっと見守ってきてくれてありがとう。きみからもらった沢山の幸福に、すごく感謝しているよ。きみのことを守るために、精一杯動いてみるよ。そんな気持ちでした。
いささか情緒的な文章でごめんなさい。
しかし、ヒロさんの舞台から私たちは、理屈だけではなく人の気持ちに働きかければ思いが伝わる、そういうことを学ぶことが出来たのではないでしょうか。
以上、潜入レポートでした。
自分の事務所で企画しておいて「潜入」も何もないだろ、というツッコミは受け付けません。
みなさま、今後とも南部事務所をよろしくお願い申しあげます。
弁護士 菊地 智史