布川国賠判決確定に寄せて
布川国賠を支援する会 山川清子
9月10日、布川国賠控訴審判決が確定しました。再審請求、再審公判、国賠と続いてきた布川事件に関する裁判はこれですべて終わりました。桜井昌司さんが20歳の時に逮捕されてから半世紀を越え、桜井さんは今74歳です。この間、実に多くの方々が無実の罪で29年間獄中生活を余儀なくされた桜井さん杉山さんを支援してきました。既に亡くなられた方も多数いらっしゃいます。18年前に亡くしました夫、山川豊(東京南部法律事務所元所員)もその一人です。
今回、東京高裁の控訴審判決は、「警察の自白の強要」だけでなく地裁では認めなかった「検察による自白の強要」も違法で国賠法上の不法行為に当たるとしました。捜査について争いのない事実と存在する証拠をもとに丁寧に判断した結果、判決の内容は桜井さんや弁護団の当初からの主張をそのまま認めるものとなり、完全勝訴、「血のかよった」判決だ、と評されています。
ただ、今回の裁判の基礎となった証拠はすべて当初から警察・検察にありました。証拠が隠されていたのです。この点について、1審の地裁判決は一定の場合に証拠開示義務を認め証拠隠しを違法としましたが、控訴審判決は捜査の違法以外については「判断するまでもなく」不法行為になるとして一切触れませんでした。しかし、桜井さんの場合、証拠が開示されていれば確定審の段階で無罪とされたはずで、半世紀も冤罪を背負うことはなかったのです。ほかの冤罪事件でも証拠が開示されず、無実の立証を阻んでいる場合が多々あります。少なくとも再審ですべての証拠が開示されて誤判かどうかを判断する制度が望まれます。
桜井さんはこの春本を出版されました。「俺の上には空が広い空が」(マガジンハウス1400円税別)。この本には、「えん罪になったことは、不運ではあるが不幸ではない」「得るものがあれば必ず失うものがあり、失うものがあれば必ず得るものがある」など桜井語録が満載です。逮捕されてから、いつも明るく楽しく前向きに生きた桜井さんの精神の真髄がわかります。コロナ禍で先が見えない不安な気持ちを励まされたとの感想も寄せられています。全国の書店やAmazonで取り寄せることができますので、一読をお勧めしたいと思います。