労働組合の本を書く

 1999年に労働契約と労働組合の2冊の法律相談書を出した。当初声をかけたある出版社は、労働組合の本など売れないと言った。そんなことはない。日本評論社から出した初版は好評で増刷し、2007年には第2版を出した。労働者・労働組合が座右における読みやすい本がなくなっていたから、必要とされていたのだ。
事務所の40周年記念として企画したものであり、顧問組合に役立つものにしたいと思ったので、取り上げる項目や取り上げる判例・裁判例は、事務所が扱った相談や事件を重点的に取り上げた。航空・ハイタク関係の特殊問題、刑事事件や街頭活動、政治活動まで1冊で載っているのは珍しくまた便利だと言われるが、長年組合の顧問として相談を受けていたことをまとめているのだから当然とも言える。
私も若い頃は労働組合のオルグに協力して組合作りの学習会をずいぶんやった。ラーメン屋の2階で2人や3人を相手に学習会をして、報酬はラーメン1杯などということも珍しくなかった。大田には「組合作り共同センター」があって、ニュースを発行していたので、そこに法律の解説を連載した。学びたいと思っている労働者や労働組合の活動家に伝わるように、短くわかりやすく書くことが大事で、それがこの本のベースになっている。
在庫がなくなり、本が欲しい、新しい本は出ないのかという電話が事務所に入るようになったので、新版を出すことにして、2月に『新・労働組合Q&A』を刊行した。
労働法は、闘いの中で作られてきたものであり、今も動いている。この本では、「労働組合の歴史と法律のかかわり」という部分を初めにおいて、そのことを説明している。
また、具体的な問題にふれるために、判例(最高裁の判決・決定で先例としての意味を持つもの)や裁判例(下級審の個別の判断)をいくつも引用している。これは、現在、ものごとが裁判所でどのように扱われているかを示したものである。裁判所の判断は変わるものである。そこで、「ここに書かれたことを固定的に考えないでほしい。私たちは、闘いのなかから判例をつくり出す、判例を動かしていく努力をしている。」というメッセージも入れた。
私は、2010年から法科大学院で労働法の授業もするようになった(実に9科目も教えているのだ)。代表的な市販のケースブック(判例を中心にまとめた教材)を使っているが、私の担当事件や事務所の弁護士が担当した事件がいくつも取り上げられている。苦労したことや勝利したときの喜びを思い返しながら、授業の準備をしている。
今回の新版では、教えながら考えたことを少し加えている。多くの人に役立ててもらえればうれしい。
弁護士 塚原英治