月別:事件紹介
- 2025年4月 (1)
- 2025年3月 (1)
- 2024年12月 (1)
- 2024年2月 (1)
- 2024年1月 (1)
- 2023年5月 (1)
- 2022年12月 (1)
- 2022年2月 (1)
- 2022年1月 (2)
- 2021年6月 (1)
- 2021年5月 (1)
弁護士 竹村 和也
1 山口泉弁護士と竹村が担当する事件で、東京地方裁判所は、2025年4月22日、ジェットスター・ジャパン株式会社に対し、原告ら客室乗務員に休憩時間を与えていないことは違法であるとして、原告らに休憩時間を付与しない勤務を命ずることを禁止するとともに、慰謝料の支払いを命じる判決を下しました。本事件と判決の内容をご報告します。
2 労働基準法(労基法)34条1項は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を与えなければならないと定めています。これは、労働時間が継続した場合に蓄積される労働者の心身の疲労を回復させ、その健康を維持するための重要な規制です。しかし、休憩時間を労基法どおりに付与されていない職場、仕事は多くあります。
3 ジェットスター・ジャパン株式会社でも、その客室乗務員に対し、労基法どおりの休憩時間を与えていないという問題がありました。乗務中はもちろんのこと、乗務する便と便の間も清掃作業等を行わされることで休憩をとることができないのです。1日に4つの便に乗務することも多々あり、休憩のない勤務が続くことで客室乗務員の疲労は極めて強いものになります。そのため、同社の客室乗務員35名が、休憩時間を付与しないことは違法であるとして、休憩時間を付与しない勤務を命ずることを禁止すること、慰謝料を支払うことを求めて提訴したのが本件です。
4 実は、労基法には休憩時間の特例が認められています。労基法40条1項は、一定の事業について、労働時間や休憩に関する労基法の規定について、「厚生労働省令で別段の定めをすることができる」としているのです。この事業に、航空機による旅客運送の事業なども含まれています。労基法40条1項をうけて、労働基準法施行規則(労基則)32条は、航空機による旅客運送事業等に従事する一定の労働者について、休憩に関する特則を設けています。その労働者に、客室乗務員も含まれています。航空各社では、労基則32条の適用を前提として客室乗務員を乗務に従事させていることが殆どかと思います。
労基則32条1項は「長距離にわたり継続して乗務する」場合に「休憩時間を与えないことができる」という規定です。長時間フライトの国際線などが想定されます(6時間以上のフライトが想定されます)。
他方、労基則32条2項は、第1項に該当しないものについて、「業務の性質上、休憩時間を与えることができないと認められる場合において、その勤務中における停車時間、折返しによる待合せ時間その他の時間の合計が法第34条第1項に規定する休憩時間に相当するときは、同条の規定にかかわらず、休憩時間を与えないことができる」と定めています。このとおり、労基則32条2項は、⑴「業務の性質上、休憩時間を与えることができないと認められる場合」であること、⑵「勤務中における停車時間、折返しによる待合せ時間その他の時間の合計が法第34条第1項に規定する休憩時間に相当する」ことが必要になります。これらを満たしていなければ、労基法34条違反が成立します。
5 本件では、労基則32条2項の上記⑴と⑵のいずれも争われました。裁判所は⑴は認めました。空港設備の利用に限界があること、運航中だけでなく便間も保安業務に従事することなどが理由です。
他方、⑵は否定しました。まず、一般論として、労基則32条2項の「その他の時間」とは「乗務時間に比して精神的肉体的に緊張度が低いと認められる時間」を言うものとし、そのような時間の合計が労基法34条1項の定める時間に相当する必要があるとしました。
本件では、乗務する便と便の間の時間(便間)、そして乗務中の「キャビンクルーレスト」なる時間(ギャレー等に座って休息をとって良いと会社がしている時間)がそれらに当たるか検討しています。便間については、実際に清掃等の業務を行う時間以外は認めましたが、乗務中の「キャビンクルーレスト」なる時間は、緊急時対応、乗客対応の必要からそれらに一切あたらないとしました。以上から、労規則32条2項が満たされていないとして、労基法34条違反を認めました。
6 裁判所は、ジェットスター・ジャパン株式に対し、労基法34条の趣旨から、休憩時間をとらせない勤務を命じたことは安全配慮義務違反であるとして、慰謝料請求を認めました。また、労基法34条の趣旨は、「労働者の心身の健康の維持にあるところ、心身の健康等は、排他的な権利としての人格権として保護されるべき法益というべき」であり、労基法が最低基準であることも考慮すると、「使用者が労働者に対して同法34条1項に違反する勤務を命ずることについては、労働者がこれを受忍すべき合理的理由はなく、労働者の人格権を違法に侵害する行為」という他ないとしました。そのうえで、その人格権侵害が継続する蓋然性が認められるとして、労基法34条1項に違反する勤務を命じてはならないと判決しました。
7 本判決は、労基則32条2項の解釈を初めて示したこと、そして休憩時間を付与しない勤務を命ずることを禁止したこと、という点で極めて重要なものです。
山口泉弁護士と竹村和也弁護士が担当したジェットスター・ジャパン不当労働事件で、千葉県労働委員会より救済命令が出されました。労働組合の執行委員長への懲戒処分が不利益取扱い、支配介入の不当労働行為と認められたものです。
格安航空会社(LCC)ジェットスター・ジャパンの労働組合幹部らに対する懲戒処分の取消を求めた訴訟で、東京地方裁判所が無効判決を言い渡しました。
Uber Japanらに団体交渉に応じるように命じた労働委員会命令
弁護士 竹村和也
Uber Eatsとは
皆さんは、Uber Eatsをご存じでしょうか。街中で、「Uber Eats」と記載されたバッグを背負って自転車に走らせる配達員を良く見かけるようになったと思います。Uber Eatsとは、飲食店から、注文主に対し、飲食物を運送する「フードデリバリー」です。それを自転車などで運送する配達員は、Uber Eatsに登録し、アプリ上でリクエストのある配送をうけて、注文者に飲食物を運送します。そして、Uber Eatsから報酬が支払われます。
配達員による労働組合
このUber Eatsを運営するUber Japan株式会社、Uber Eats Japan合同会社は、配達員の報酬を一方的に決定するなどしていたのですが、その報酬の基礎とされていた距離の計算等に疑義が出たり、配達中に事故に適切なサポートがなされないなどの問題が生じていました。そのため、配達員達は、その労働環境を改善するために、2019年10月、「ウーバーイーツユニオン」という労働組合を結成し、Uber Japanらに対し、団体交渉を申し入れたのです。
しかし、Uber Japanらは、配達員は「労働者」ではないとして、いずれの団体交渉も拒否しました。そのため、ウーバーイーツユニオンが、2020年3月16日、東京都労働委員会に対し、Uber Japanらへの団体交渉応諾命令等を求めて救済を申し立てました。竹村もユニオンの弁護団に参加しています(この記事は竹村の個人的見解です)。
配達員は「労働者」
東京都労働委員会は、2022年11月25日、Uber Japanらに、ウーバーイーツユニオンと誠実に団体交渉に応じなければならないとする命令書を交付しました。
まず、労働委員会は、配達員を労働組合法上の「労働者」だと認めました。Uber Japanらは、Uber Eatsは、配達員に顧客(飲食店)を紹介する仲介サービス(プラットフォーム)にすぎず、飲食店が配達員に配送を委託しているのであるから、配達員はUber Japanらの「労働者」ではないと主張していました。
しかし、労働委員会は、労働組合法上の労働者か否かは、「契約の名称等の形式のみのとらわれることなく、その実態に即して客観的に判断する必要がある」とし、「ウーバーは、配達パートナーに対し、プラットフォームを提供するだけにとどまらず、配達業務の遂行に様々な形で関与していえる実態があり、配達パートナーは、そのようなウーバーの関与の下に配達業務を行っていることからすると、本件において、配達パートナーが純然たる『顧客』(プラットフォームの利用者)にすぎないとみることは困難であり、配達パートナーが、ウーバーイーツ事業全体の中で、その事業を運営するウーバーに労務を供給していると評価できる可能性のあることが強く推認される」として、Uber Japanらの主張を認めませんでした。そのうえで、労働委員会は、「ウーバーイーツ事業は、配達パートナーの労務提供なしには機能せず、配達パートナーは、会社らの事業の遂行に不可欠な労働力として確保され、事業組織に組み入れられていたというべきである」などと判断して、労働組合法上の「労働者」に該当することを認めたのです。
直接の契約関係にないUber Japanの責任
実は、Uber Japanは配達員と直接の契約関係にはありません。しかし、労働委員会は、Uber Japanに対しても、「ウーバーイーツ事業については、同事業に携わる関連会社各社の役割分担が明確に区別されているとはいえず、実質的には、関連各社が事実上一体になって、同事業を展開し、運営していたとみるのが相当である」として、「団体交渉事項について、配達パートナーとの契約当事者であるウーバー・イーツ・ジャパンと共に、現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったとみるのが相当であり、団体交渉に応ずるべき使用者の地位にあるというべきである」と判断しました。
デジタルプラットフォームでの働き方
Uber Eatsのようなデジタルプラットフォームは、世界的に拡大していますが、そこで働く人の多くが、低報酬・不安定な条件のもとに置かれています。にもかかわらず、「個人事業主」と位置付けられ、Uber Japanらのようなプラットフォーム運営会社が労働法を免れようとしています。諸外国では、司法・行政が実態に基づき労働者性を肯定する判断がなされた多数積み重ねられ、法制度改革の動きもあります。今回の命令は、Uber Eatsの配達員の就労実態を丁寧に検討したうえで、Uber Japanらが、そのプラットフォームビジネスの形式を利用して、労働組合法上の義務を免れることを否定したものであり、高い意義があります。
梶山孝史弁護士が担当する過労自殺事件が報道されました(弁護団:川人博弁護士、梶山孝史弁護士)
https://news.yahoo.co.jp/articles/aef47abfe2a1d82b3b3c2f832827dd4713fc05fb
竹村和也弁護士が担当した事件で、約130時間分の時間外労働手当を含むとされる固定残業代が、労基法37条の割増手当の支払いとはいえないとされた判決を得ました(東京地裁判決令和4年1月17日)。
トラック運転手である原告は、月100時間以上の時間外労働に従事し、狭心症を発症したところ、労働災害にあたるとされ、休業補償給付等の支給決定を得ました。しかし、その給付額の基礎額の算定にあたって固定残業代が有効であることを前提にされたため、その取消しを求めたのがこの裁判です。
原告の労働契約書では、その賃金は基本給約14万円、運行時間外手当約14万円とされ、「運行時間外手当は、通常発生する時間外相当額として支給する」、「含まれる時間外労働時間数=(運行時間外手当)÷((基本給+評価給)÷月平均労働時間数×1.25)」などとされていました。東京地方裁判所は、基本給だけみると最低賃金に近い金額になり、原告の時給として明らかに低額にすぎること、運行時間外労働時間に含まれる時間外労働時間数は約130時間となり、それは36協定の限度時間や過労死基準を超えることなどからすれば、運行時間外手当には「法定時間外勤務に対する対価以外のものを相当程度含んでいる」として、法定外時間外勤務に対する対価として支払われるものではないと判断しました。
固定残業代の対象時間が過度に長時間であることを理由に公序良俗違反とされた裁判例はこれまでにもあります(イクヌーザ事件・東京高判平成30.10.4労判1190.5など)。ただし、本判決は、固定残業代を除いた基本給が極めて低額であること、対象時間が長時間であることなどを「対価性」の問題として検討した点で先例的価値があるものです。
2022年1月17日、東京地裁民事36部において、原告3名が被告KLMオランダ航空に対し、「期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する」との判決が言い渡されました。訓練契約が労働契約にあたると認定され、訓練期間を含む労働契約の期間が通算5年を超えているとし、労働契約法18条に基づき無期転換が認められました。
原告の皆様の頑張りとご支援いただいた皆様の力によって勝ち取った全面勝訴判決です。弊所の堀浩介弁護士、黒澤有紀子弁護士、竹村和也弁護士、梶山孝史弁護士が弁護団の一員として取り組みました。この度の判決は、無期雇用による雇用の安定を図る第一歩といえる画期的な判決です。