著書・講演 月別アーカイブ: 12月 2022
竹村和也弁護士も代理人であるUberEatsの事件について東京都労働委員会で勝利命令が出されました
2022.12.01Uber Japanらに団体交渉に応じるように命じた労働委員会命令
弁護士 竹村和也
Uber Eatsとは
皆さんは、Uber Eatsをご存じでしょうか。街中で、「Uber Eats」と記載されたバッグを背負って自転車に走らせる配達員を良く見かけるようになったと思います。Uber Eatsとは、飲食店から、注文主に対し、飲食物を運送する「フードデリバリー」です。それを自転車などで運送する配達員は、Uber Eatsに登録し、アプリ上でリクエストのある配送をうけて、注文者に飲食物を運送します。そして、Uber Eatsから報酬が支払われます。
配達員による労働組合
このUber Eatsを運営するUber Japan株式会社、Uber Eats Japan合同会社は、配達員の報酬を一方的に決定するなどしていたのですが、その報酬の基礎とされていた距離の計算等に疑義が出たり、配達中に事故に適切なサポートがなされないなどの問題が生じていました。そのため、配達員達は、その労働環境を改善するために、2019年10月、「ウーバーイーツユニオン」という労働組合を結成し、Uber Japanらに対し、団体交渉を申し入れたのです。
しかし、Uber Japanらは、配達員は「労働者」ではないとして、いずれの団体交渉も拒否しました。そのため、ウーバーイーツユニオンが、2020年3月16日、東京都労働委員会に対し、Uber Japanらへの団体交渉応諾命令等を求めて救済を申し立てました。竹村もユニオンの弁護団に参加しています(この記事は竹村の個人的見解です)。
配達員は「労働者」
東京都労働委員会は、2022年11月25日、Uber Japanらに、ウーバーイーツユニオンと誠実に団体交渉に応じなければならないとする命令書を交付しました。
まず、労働委員会は、配達員を労働組合法上の「労働者」だと認めました。Uber Japanらは、Uber Eatsは、配達員に顧客(飲食店)を紹介する仲介サービス(プラットフォーム)にすぎず、飲食店が配達員に配送を委託しているのであるから、配達員はUber Japanらの「労働者」ではないと主張していました。
しかし、労働委員会は、労働組合法上の労働者か否かは、「契約の名称等の形式のみのとらわれることなく、その実態に即して客観的に判断する必要がある」とし、「ウーバーは、配達パートナーに対し、プラットフォームを提供するだけにとどまらず、配達業務の遂行に様々な形で関与していえる実態があり、配達パートナーは、そのようなウーバーの関与の下に配達業務を行っていることからすると、本件において、配達パートナーが純然たる『顧客』(プラットフォームの利用者)にすぎないとみることは困難であり、配達パートナーが、ウーバーイーツ事業全体の中で、その事業を運営するウーバーに労務を供給していると評価できる可能性のあることが強く推認される」として、Uber Japanらの主張を認めませんでした。そのうえで、労働委員会は、「ウーバーイーツ事業は、配達パートナーの労務提供なしには機能せず、配達パートナーは、会社らの事業の遂行に不可欠な労働力として確保され、事業組織に組み入れられていたというべきである」などと判断して、労働組合法上の「労働者」に該当することを認めたのです。
直接の契約関係にないUber Japanの責任
実は、Uber Japanは配達員と直接の契約関係にはありません。しかし、労働委員会は、Uber Japanに対しても、「ウーバーイーツ事業については、同事業に携わる関連会社各社の役割分担が明確に区別されているとはいえず、実質的には、関連各社が事実上一体になって、同事業を展開し、運営していたとみるのが相当である」として、「団体交渉事項について、配達パートナーとの契約当事者であるウーバー・イーツ・ジャパンと共に、現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったとみるのが相当であり、団体交渉に応ずるべき使用者の地位にあるというべきである」と判断しました。
デジタルプラットフォームでの働き方
Uber Eatsのようなデジタルプラットフォームは、世界的に拡大していますが、そこで働く人の多くが、低報酬・不安定な条件のもとに置かれています。にもかかわらず、「個人事業主」と位置付けられ、Uber Japanらのようなプラットフォーム運営会社が労働法を免れようとしています。諸外国では、司法・行政が実態に基づき労働者性を肯定する判断がなされた多数積み重ねられ、法制度改革の動きもあります。今回の命令は、Uber Eatsの配達員の就労実態を丁寧に検討したうえで、Uber Japanらが、そのプラットフォームビジネスの形式を利用して、労働組合法上の義務を免れることを否定したものであり、高い意義があります。