約130時間分の固定残業代の支払が無効とされた判決を獲得しました

竹村和也弁護士が担当した事件で、約130時間分の時間外労働手当を含むとされる固定残業代が、労基法37条の割増手当の支払いとはいえないとされた判決を得ました(東京地裁判決令和4年1月17日)。

トラック運転手である原告は、月100時間以上の時間外労働に従事し、狭心症を発症したところ、労働災害にあたるとされ、休業補償給付等の支給決定を得ました。しかし、その給付額の基礎額の算定にあたって固定残業代が有効であることを前提にされたため、その取消しを求めたのがこの裁判です。

原告の労働契約書では、その賃金は基本給約14万円、運行時間外手当約14万円とされ、「運行時間外手当は、通常発生する時間外相当額として支給する」、「含まれる時間外労働時間数=(運行時間外手当)÷((基本給+評価給)÷月平均労働時間数×1.25)」などとされていました。東京地方裁判所は、基本給だけみると最低賃金に近い金額になり、原告の時給として明らかに低額にすぎること、運行時間外労働時間に含まれる時間外労働時間数は約130時間となり、それは36協定の限度時間や過労死基準を超えることなどからすれば、運行時間外手当には「法定時間外勤務に対する対価以外のものを相当程度含んでいる」として、法定外時間外勤務に対する対価として支払われるものではないと判断しました。

固定残業代の対象時間が過度に長時間であることを理由に公序良俗違反とされた裁判例はこれまでにもあります(イクヌーザ事件・東京高判平成30.10.4労判1190.5など)。ただし、本判決は、固定残業代を除いた基本給が極めて低額であること、対象時間が長時間であることなどを「対価性」の問題として検討した点で先例的価値があるものです。