ジェットスター・ジャパンに対し、客室乗務員に休憩時間を付与しない勤務を命ずることを禁止する判決!!

弁護士 竹村 和也

1 山口泉弁護士と竹村が担当する事件で、東京地方裁判所は、2025年4月22日、ジェットスター・ジャパン株式会社に対し、原告ら客室乗務員に休憩時間を与えていないことは違法であるとして、原告らに休憩時間を付与しない勤務を命ずることを禁止するとともに、慰謝料の支払いを命じる判決を下しました。本事件と判決の内容をご報告します。

2 労働基準法(労基法)34条1項は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を与えなければならないと定めています。これは、労働時間が継続した場合に蓄積される労働者の心身の疲労を回復させ、その健康を維持するための重要な規制です。しかし、休憩時間を労基法どおりに付与されていない職場、仕事は多くあります。

3 ジェットスター・ジャパン株式会社でも、その客室乗務員に対し、労基法どおりの休憩時間を与えていないという問題がありました。乗務中はもちろんのこと、乗務する便と便の間も清掃作業等を行わされることで休憩をとることができないのです。1日に4つの便に乗務することも多々あり、休憩のない勤務が続くことで客室乗務員の疲労は極めて強いものになります。そのため、同社の客室乗務員35名が、休憩時間を付与しないことは違法であるとして、休憩時間を付与しない勤務を命ずることを禁止すること、慰謝料を支払うことを求めて提訴したのが本件です。

4 実は、労基法には休憩時間の特例が認められています。労基法40条1項は、一定の事業について、労働時間や休憩に関する労基法の規定について、「厚生労働省令で別段の定めをすることができる」としているのです。この事業に、航空機による旅客運送の事業なども含まれています。労基法40条1項をうけて、労働基準法施行規則(労基則)32条は、航空機による旅客運送事業等に従事する一定の労働者について、休憩に関する特則を設けています。その労働者に、客室乗務員も含まれています。航空各社では、労基則32条の適用を前提として客室乗務員を乗務に従事させていることが殆どかと思います。
労基則32条1項は「長距離にわたり継続して乗務する」場合に「休憩時間を与えないことができる」という規定です。長時間フライトの国際線などが想定されます(6時間以上のフライトが想定されます)。
他方、労基則32条2項は、第1項に該当しないものについて、「業務の性質上、休憩時間を与えることができないと認められる場合において、その勤務中における停車時間、折返しによる待合せ時間その他の時間の合計が法第34条第1項に規定する休憩時間に相当するときは、同条の規定にかかわらず、休憩時間を与えないことができる」と定めています。このとおり、労基則32条2項は、⑴「業務の性質上、休憩時間を与えることができないと認められる場合」であること、⑵「勤務中における停車時間、折返しによる待合せ時間その他の時間の合計が法第34条第1項に規定する休憩時間に相当する」ことが必要になります。これらを満たしていなければ、労基法34条違反が成立します。

5 本件では、労基則32条2項の上記⑴と⑵のいずれも争われました。裁判所は⑴は認めました。空港設備の利用に限界があること、運航中だけでなく便間も保安業務に従事することなどが理由です。
他方、⑵は否定しました。まず、一般論として、労基則32条2項の「その他の時間」とは「乗務時間に比して精神的肉体的に緊張度が低いと認められる時間」を言うものとし、そのような時間の合計が労基法34条1項の定める時間に相当する必要があるとしました。
本件では、乗務する便と便の間の時間(便間)、そして乗務中の「キャビンクルーレスト」なる時間(ギャレー等に座って休息をとって良いと会社がしている時間)がそれらに当たるか検討しています。便間については、実際に清掃等の業務を行う時間以外は認めましたが、乗務中の「キャビンクルーレスト」なる時間は、緊急時対応、乗客対応の必要からそれらに一切あたらないとしました。以上から、労規則32条2項が満たされていないとして、労基法34条違反を認めました。

6 裁判所は、ジェットスター・ジャパン株式に対し、労基法34条の趣旨から、休憩時間をとらせない勤務を命じたことは安全配慮義務違反であるとして、慰謝料請求を認めました。また、労基法34条の趣旨は、「労働者の心身の健康の維持にあるところ、心身の健康等は、排他的な権利としての人格権として保護されるべき法益というべき」であり、労基法が最低基準であることも考慮すると、「使用者が労働者に対して同法34条1項に違反する勤務を命ずることについては、労働者がこれを受忍すべき合理的理由はなく、労働者の人格権を違法に侵害する行為」という他ないとしました。そのうえで、その人格権侵害が継続する蓋然性が認められるとして、労基法34条1項に違反する勤務を命じてはならないと判決しました。

7 本判決は、労基則32条2項の解釈を初めて示したこと、そして休憩時間を付与しない勤務を命ずることを禁止したこと、という点で極めて重要なものです。