「HARD・COVER」 坂井 興一 | 「忠臣蔵」好きの皆様へ 大森 夏織 | |
「k県k市の正月」は初詣客が溢れ居場所もなくなるので、大晦日の早いうちにT八幡宮に前年詣りを済ませると、あとは自宅周辺をウロウロするだけになる。何処ぞへと云っても長距離移動の明け暮れであってみれば、今更乗り物のお出掛けでは休日にならない。愛犬「シロ」がいた日々はその辺の海・山の散歩が楽しかったが、最早それも帰らぬ日々。となるとあとは本との付き合いになる。暫く入院していた一昔前、病院の廊下の隅にライブラリーが出来ていた。退院患者さんらが置いていったものらしい数々の本のお蔭で、私の不安と鬱屈は解消されていった。表紙が堅い「HARD・COVER」本好きになったのはそれからである。壮年期迄、本はすべて買うものであった(業務本は今でもそうですよ、念のため!)。読み終えて本箱にズラリと並ぶと、私の脳内ストックが増えたみたいで、それが思想・哲学、内外名作古典となれば、尚更の充実感に浸れたのである。 ところがところが、本は溜まる、出て行かない、床が傾いて戸が閉まらない、同じものを買ってしまう、高くて重いのがイヤでハードカバーから新書・文庫の類となり、字が小さくて目が悪くなる…。それが目からウロコの病院ライブラリーのお蔭で図書館常連利用者とはあいなり、選ぶならズッシリと立派で、何より字が大きく、写真・図版も楽しめるハードカバー本となった。 そんな訳で買うなら絶対出逢わない「村上春樹や吉本ばななの世界」も知った。ちなみに殆どすべて読んでしまった作家の一人は先年亡くなった吉村 昭で、氏の長編は司馬遼氏と対極の誠実重厚地味史観に何とも言えない味わいがある。 そんな次第で、敬愛する作家の皆さん、タダ読みゴメンなさい。今は住民税のお返しはこれ位なものですから。 |
自分の頭で深くモノを考えることが苦手で、「じっくり考えるのは今度ってことで」と後回しにしがちな私は、社会の事象に付和雷同、はしゃぎ過ぎの民衆に陥る危険を、常に自覚しています。 大人は毎日の労働や生活でくたくた、青少年は詰め込み勉強や思春期ホルモン全開で、それぞれに忙しく、世の中に起こっていることを注意深く眺めるどころではないかもしれません。 けれど、「改革反対は抵抗勢力」「日本は平和ボケ」「医療費高騰は大問題」など、一見そうかも?のスローガンに、「とりあえず後から考えるとして」等とつぶやき騙されるうち、額に汗して納める税金はとんでもなく無駄遣いされまくり… さて、お正月だし忠臣蔵でも、という方々。「不忠臣蔵」「裏表忠臣蔵」の2冊、面白さに太鼓判を押します。 「不忠臣蔵」井上ひさし(集英社文庫) 「裏表忠臣蔵」小林信彦(新潮文庫) 「若くてハンサム(?)な浅野のお殿様、いじめられてかわいそう」「大石内蔵助以下、痛みに耐えてよく頑 張った! 感動した!」など、炬燵で蜜柑を食べながら漫然ステロタイプの忠臣蔵に浸りそうな私たちへ、わくわくするような刺激を与えてくれます。 それもそのはず。著者どちらも、斬新かつ真実に迫ることを、読みやすく上手い文章で書いてくれるという、市井の一読者である私たちが大切にしたい、プロ中のプロの作家です。 なお、「おかげで純朴に『忠臣蔵』を楽しめなくなったじゃないか!」というクレームにはお応えできませんので、悪しからず。 おわり |