身近な法律相談 | |
生命保険金と相続 | |
弁護士 塚原 英治 | |
● 相続人が受取人に指定された生命保険金は相続財産ではない 保険金の受取人として特定の人(たとえば、妻)が指定されている場合、保険金は、その人が固有の権利として取得するので、遺産には含まれません(最高裁平成一四年一一月五日判決)。保険金受取人が、単に「相続人」とされている場合であっても、それは被相続人(亡くなった人)の死亡時において相続人である者個人を指定しているのであって、その者は相続によってではなく、保険契約によって保険金を受け取るのですから、保険金はやはり相続財産にはなりません(最高裁昭和四〇年二月二日判決)。 相続財産ではないので、相続放棄をしていても取得できるわけです。 なお、被相続人が自己を保険金受取人と指定している保険契約の保険金については、相続人は相続によって取得することになります。 ● 保険金の受け取りの割合は 相続人が複数いる場合、その配分が問題になります。指定があればそれによります。契約者が「相続人」と指定した場合は、相続人に対してその相続分の割合により取得させる意思であることが推定されるので、民法の定める相続分によることになります(最高裁平成六年七月一八日判決[損害保険の事例])。 ● 特別受益として扱うことがある このように考えて取扱うと、相続人のうち受取人である人とそうでない人との間で不公平が生ずることがあります。そこで実務では、受取人である相続人を民法九〇三条一項の規定する「特別受益者」として取扱い、保険金(の一部)を「特別受益財産」として遺産に加算(持戻し)して相続分を計算するという処理をすることがありました。 最高裁は、平成一六年一〇月二九日の決定で、原則として特別受益には当たらないが、特段の事情があれば九〇三条を類推することができると判断しました。特段の事情の有無については、「保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。」とされています。今後特別受益として扱うことはまれになるでしょう。 ● 税務上の扱い 以上にご説明した、被相続人が自ら被保険者となり、相続人の一人を受取人に指定して契約した場合、この保険金は相続税の対象となります。そして法定相続人一人について五〇〇万円までが非課税額になるので、たとえば相続人が妻と子二人の場合には、妻がこの保険金の受取人として指定されていても、一五〇〇万円を超過する部分だけが課税財産とされます(相続税法一二条一項五号〉。 また、被相続人以外の第三者が保険契約者(保険料の負担者)、被相続人が被保険者、受取人が相続人の場合には贈与税の対象となります。さらに、相続人の一人が自分を保険契約者(保険料の負担者)兼受取人とし、被相続人を被保険者として契約している場合には、保険金は一時所得として取扱われます。 |