21世紀の朝日訴訟 −生存権裁判−
老齢加算制度の廃止は憲法違反!
                                弁護士 佐藤 誠一


▲大田区でも昨年3月に「東京生存権裁判を支える大田連絡会」を結成。10月に行われた報告集会で訴える原告の榊原芳治さん。
 昨年は生活保護関連のニュースが多く見られた年でした。経済力の格差が拡大し、低所得者が大幅に増大したことの反映でもあります。昨年の東京都の調査によると、母子家庭の5割以上、高齢世帯の3割が、年収200万円未満の収入で暮らしているといいます。その一方で、生活保護受給申請をあれこれ拒絶する役所、受給者には「自立」を強制し保護費を取り上げようとする役所、あげくは餓死者まで出しながら何ら対応に問題がないという役所…、そんなニュースが頻繁に報じられた昨年でした。

 「健康で文化的」な生活って??

 人はみな、恁注Nで文化的な最低限度の生活を営む権利揩保障されています。これは憲法第25条にはっきりと書かれています。
 しかしながら、今般、生活保護の「老齢加算」が廃止され、恁注Nで文化的な最低限度の生活揩ヌころか、生きていくこと自体が危ぶまれています。
 70歳以上の(単身)高齢者が受給していた保護費は、2003年度にはおおよそ9万3000円程度でした(東京23区在住)。それが3年かけて段階的に減少し、2006年度には7万5000円程度になってしまいました。それまで70歳以上の高齢者の場合、1万8000円の「老齢加算」が給付されていたのですが、これが段階的に廃止されたのです。これによりなんと2割も生活費が減額されたことになります。小泉前首相の「骨太の方針」に沿った結果でした。
 そもそも、老齢加算が給付されてきたのは、高齢者は他の年齢層に比べ、「消化吸収がよく良質な食品を必要とする…肉体的条件から暖房費、被服費、保健衛生費等に特別な配慮を必要とする…近隣・知人・親戚への訪問や墓参など社会的費用が…余分に必要となる」との理由からでした。高齢者のこの状況には何ら変わりがないのに、2割も生活費が減らされる理由はありません。この減額のため、食事の回数を減らしたり、近所の葬儀にも出られない、また年1回の旅行や観劇などもできなくなったという高齢者が、たくさんいます。これでは「健康で文化的」な生活とは言えません。

 21世紀の朝日訴訟

 これまでに京都・広島・新潟・福岡などで、この保護費の減額は憲法違反であるとして是正を求める訴訟が提起されてきました。東京でも、昨年2月14日、12名(大田区では1名)の原告が提訴しました。これを生存権裁判と呼んでいます。50年前に提訴され、その後生活保護のあり方を大きく改善するきっかけとなった「朝日訴訟」にちなんで、「21世紀の朝日訴訟」とも呼んでいます。
 原告の皆さんは70歳以上の高齢者です。迅速な訴訟手続を進めたいとする原告の要望を、裁判所も重く受けとめています。今年5月頃には判決となる構えで手続が進められています。
 同封の署名用紙はこの裁判へご支援を頂くためのものです。皆さまの声が、判決を動かすものだと信じています。どうぞ、よろしくご協力いただきますよう、お願い申し上げます。

 私たちにも忍び寄る!政府の危険な動き

 ところで、さらに追い打ちをかけるような政府の動きがあります。厚労省は、生活扶助基準そのものの引き下げを狙っています。生活扶助基準は、生活保護費受給者のみならず、国民全体に影響を及ぼします。介護保険の保険料・利用料の減額、地方税の非課税、公立高校の授業料免除、就学援助の給付対象、国民健康保険料の減免、などなどで、減免を受けるか否か、給付を受けるか否か、その判断基準となっているのです。この厚労省の動きにも、厳重な警戒が必要です。

なんぶ2002冬号