オススメ映画コーナー
映画と弁護士倫理の授業    
塚 原 英 二
 2004年から、早稲田大学法科大学院で、専任の教授として、多くの科目を教えています。私の授業は、豊富な題材を用いて、学生に自分が弁護士になったつもりで考えさせる工夫をしています。映画を見せる余裕はありませんが、いくつも紹介しては、学生に狭い本の世界に閉じこもらないよう指導しています。
 「弁護士の役割と責任」という科目で、弁護士の報酬を考えるときの定番の映画3本をご紹介しましょう。

「レインメーカー」THE RAINMAKER (1997)
 「雨乞い師」の意味、転じて、「法律事務所で、依頼者を多く呼び込み収入を増やす実力を有する弁護士」をいう。マット・デイモン演ずる文無しの新米弁護士ルディーが、白血病で死にかけている貧しい青年を代理して、治療費請求を断り続ける保険会社と対決する。DV被害者である若い女性依頼者との恋愛も絡めて、大変面白い。専門家にとっては弁護士倫理の授業の素材の宝庫である。原作は、ジョン・グリシャム『原告側弁護人 上下』(白石朗訳・新潮文庫)。

「シビル・アクション」A CIVIL ACTION (1998)
 実在した事件に基づく軽快だが内容は重い映画。ジョン・トラボルタ演ずる、ポルシェに乗る若手売れっ子のシュリットマン弁護士は、マサチューセッツ州で大手の会社が汚染した水により子供が中毒にかかったと信ずる家族の集団訴訟を引き受ける。彼は、二つの重大な決定をする。一つは、彼とその法律事務所が訴訟費用を持つ(後述するアメリカの完全成功報酬制による)。第二に、事実審理の方が和解よりも賠償額が大きいと信じ、その家族を証人台で証言させるため、被告代理人からの数百万ドルの和解の申し入れを断る。訴訟は長引き、土壌のボーリング調査、専門家の鑑定等に数十万ドルの費用がかかる。偏見のある裁判官と老獪な会社側弁護士に翻弄され、陪審裁判では敗訴、シュリットマン弁護士とその事務所は破産する。しかし、その後の努力で会社は環境庁の調査により莫大な罰金を科せられる。原作は、J・ハー『シビル・アクション│ある水道汚染訴訟 上下』(雨沢泰訳・新潮文庫)。

「エリン・ブロコヴィッチ」ERIN BROCKOVICH  (2000)
 シングル・マザーとして苦闘中のエリンは、小さな法律事務所に就職するが、汚染を繰り返す会社を相手取った公害裁判に関わる。勝ち目のないように思われた事件を続けようとして周囲の偏見と戦う女性の健気さと工夫を感動的に捉えて、ジュリア・ロバーツはアカデミー賞主演女優賞を取った。原告を組織していく努力など見所も多い。
 600人の集団訴訟で、賠償額は3億3300万ドル、弁護士の成功報酬は40%で144億円、エリンがボス弁護士からもらったボーナスの小切手は200万ドル(2億円強)であった。
 完全成功報酬制は、アメリカの人身損害賠償事件で採用されている制度で、依頼者に負担を掛けずに訴訟を起こせる仕組である。経費は全部弁護士が立て替え、勝訴すれば、経費の他に報酬として賠償額の3割、4割を取得する。敗訴すれば、報酬はゼロであり、経費を依頼者に負担させることもない。
 成功すれば、エリン・ブロコヴィッチのようになり、失敗すればシビル・アクションのようになる、弁護士にとってはリスクの大きい制度である。
私のイチオシ映画 「カラー・オブ・ハート」
大 森 夏 織
 世界各地のこどもが紛争や暴力の被害を受け、「愛国心」ある者こそ掲げるべき日本国憲法前文や9条も貶められ、苦しく悲しいニュースが満ちあふれる現在、ほんとうに泣きたいのなら映画なんか見るまでもありません。が、自分に責任なく、真実のため闘うでもなく、ただ、たまには現実を忘れて気持ちよく泣きたい。仕事や生活に疲れたそんなゆるーい心境で「泣ける映画」をお求めの方へ、おすすめの一作です。
 アメリカの高校生兄妹が50年代白黒ホームドラマの世界へタイムスリップするお話。センスのない邦題(原題「Pleasantville」)が難点ですが、才能豊かなゲーリー・ロス監督の傑作。ラストに3名の登場人物がひとことずつセリフを言うのですが、3回観て3回ともそこで「泣けました」。
 私同様「いま会い」「セカチュー」どころか文化人総絶賛「ピアノ・レッスン」に辟易し、アカデミー受賞作「ミリオンダラー・ベイビー」にすら無反応の方でも、うるうるできるかもしれません。

なんぶ2001年夏号