人間らしく働きたい! どうなっちゃうの?!労働契約法・労働時間法 |
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弁護士 堀 浩 介 |
労働契約法の必要性 労使関係においては、使用者がその圧倒的に優位な地位に基づいて、労働契約の成立、展開、終了に関わるあらゆる局面において、事実上労働条件を一方的に決定しています。こうした現状を踏まえれば、労働者の人権を擁護するために、判例の到達点も踏まえ、労働契約における権利義務の内容を労働契約法という形で明確にする必要性はいうまでもありません。 「在り方研」・「時間研」での議論 厚生労働省の私的研究会である「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」(在り方研)は2004年4月から労働契約法についての検討を開始しました。また、同じく厚生労働省の私的研究会である「今後の労働時間制度に関する研究会」(時間研)は2005年4月から労働時間法制、なかんずくホワイトカラー労働者に関して労働時間規制(時間外労働、休日労働に対する規制)の適用除外を拡大するホワイトカラー・エグゼンプション制度の導入に向けた議論を開始しました。この制度は、労働者から時間外、深夜、休日の割増賃金を取り上げ、長時間労働に対する歯止めを奪うものであり、経済界が強く求めてきた制度です。 昨年9月に「在り方研」は労働契約法についての最終報告書を発表しました。さらに、「時間研」は、本年1月に最終報告書を発表しました。これらは何れも労働者の人権擁護の観点に照らせば著しく不十分なものであり、反面で、解雇の金銭解決制度の提案など労働者の権利擁護に逆行する内容を多く含んでいます。 労働政策審議会労働条件分科会での議論 厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会は、在り方研最終報告書を受けて、昨年10月から労働契約法の検討を開始し、さらに、本年1月の時間研最終報告書も受けて、4月には「労働契約法制及び労働時間法制にかかる検討の視点」を公表し、6月13日には「中間とりまとめ素案」を発表しました。 これらは何れも @就業規則による一方的な労働条件の決定制度 A違法・無効な解雇であっても、使用者が労働者に一定額の金銭を支払うことで解雇が有効とされ、労働者が職場復帰を 果たせなくなる解雇の金銭解決制度 B労働時間法(時間外労働・深夜労働・休日労働に対する割増賃金の支払い義務)の適用除外者の拡大 を柱としています。 ところが、6月27日に行われた労働条件分科会において、使用者側委員は、時間外労働に対する割増賃金の割増率を現行の最低25%から50%に引き上げる提案に反発し、労働者側委員も労働時間規制の適用除外や解雇の金銭解決制度に対する反対が全く考慮されないことに反発して退席しました。このため、次回の分科会の日程は立っていません。しかし、厚生労働省は、12月には労働政策審議会に建議を発表させ、来年の通常国会にはその内容を法案として提出する意図を放棄してはいません。 今こそ活発な反対運動を 仮に前記のような法律が成立すれば、労働者は使用者の思うがままに労働条件を決められ、さらには残業代も奪われる無権利状態に置かれてしまいます。また、使用者が違法・無効な解雇を行っても、僅かばかりの金銭で職場に復帰することができなくなります。 こうした厚生労働省の動きを放置することは、労働者にとって念願であった労働契約法の名の下に、むしろ労働者の権利を後退させる重大な事態を招きかねません。 厚生労働省・経済界の企てを許さず、人間らしく働くための労働契約法・労働時間法の実現を目指して、更に運動を強めなければなりません。ともに頑張りましょう。 |