九条正念場分かれ道の年 | |
弁護士 坂 井 興 一 | |
大同結集を! 戦後60年が経ち、今度は1946年11月3に日本国憲法が制定されて60年目の年がやってきた。日本の平和にとって記念すべきこの日々は然し、戦争国家への分かれ道の日々になっている。昨年10月28日に発表の自民党「新憲法草案」(政権党草案とはいえ、私党私案には違いないので、以下、単に私案という。)では、9条1項の恒久平和と戦争放棄を維持すると言いながら、新たな9条の2の「日本国自衛軍」軍隊が、b国際協調cという名の下に唯一覇権国アメリカ軍と共同軍事作戦行動を取る。「集団的自衛権」が承認され、自衛権の名の下に世界のどこででも、先制攻撃も辞さない。靖国公式参拝をも合憲化しようとする小泉内閣の東アジアへ向けての更なる緊張信号発信の手始めは、「憲法改悪」へ向けての国民投票法案上程。今や、昨年9月11日総選挙で郵政一辺倒小泉支持であったか否か、政権準備党支持であったか否かを棚上げしてでも、「戦争は二度とご免!」、「憲法九条を守ろう!」の一点で心をあわせての大同結集が求められている。 様々な運動 大田区では「大田憲法会議」・「平和のための戦争資料展」や、「原爆症認定訴訟」・「残留孤児訴訟」支援運動等、様々な角度から憲法を守り、平和な日本をめざす運動が繰り広げられていた。然し、憲法情勢悪化のなかで、2004年6月10日の、井上ひさし・梅原猛・大江健三郎・奥平康弘・小田実・加藤周一・澤地久枝・鶴見俊輔・三木睦子の中央九氏アピールに応えようとの強い機運が起こってきた。そうしたなかで生まれたものの一つが、「弁護士9条の会・おおた」で、昨年5月26日、憲法九条をまもることを一致点に大田区在住・在勤の弁護士が集まり、結成された。当日は、イラク人質の一人でフォトジャーナリストの郡山総一郎さんのスライドとトーク、夏目漱石の研究者として知られる東大教授で全国九条の会事務局長の小森陽一さんの講演、国際的な人権活動を展開する土井香苗さん(憲法を守る若手弁護士の会)の司会で、蒲田東口のアプリコ地下ホールに400人の方々が熱心に聞き入った。案内のポスターとビラは郡山さん撮影の子どもの写真を使い、「あれ、いいね。うちにも貼りたいよね!」とうわさになるほどだった。参加者は小さなお子さん連れのお母さんや若い人が多く、人数も予想を超え、主催者一同の感激もひときわであった。その後も会は、自民党私案分析の学習会、沖縄戦体験の儀同保弁護士のお話を聞く会などをしている。 新たな高まり そして同じアプリコ大ホールでの「大田九条の会」結成が10月6日。区内には、たまがわ・新蒲田・糀谷・大森西などの地域九条の会や、一人一人の会、女性の会、働く者の九条の会など、20近くの九条の会がある。これら九条の会のネットワークとして、当日、1350人の東京都の区レベルでは最多人数のご参加と賛同での結成で、作家の井上ひさしさん・澤地久枝さん、また、女優の吉永小百合さんや天文学者の海部宜男さんにメッセージを寄せて頂いた。50余人のよびかけ人・多数の賛同者の方々・区内各九条の会の方々の参加により、「大田九条の会」申し合わせが承認され、発会が宣言された。会は、九氏アピールに応え、憲法九条を守る一点で集い、対等・平等の立場から会長も代表も置かないが、区内の様々な団体・有志が、賛同者世話人やボランティア事務局として運動をお手伝いすることになった。発会記念講演では、「真珠の首飾り」等の憲法劇を手掛けている脚本家のジェームス・三木さんが、平和の大切さと国際的な文化交流の重要性を訴えられ、その後、女流評論家で吉屋信子の研究家などで知られる吉武輝子さんと大田区再登板の小森陽一さんを加えて、9条や憲法24条の両性の平等・国民主権・個人の尊厳といった憲法の重要テーマを笑いを交えながら鼎談して頂いた。集いでは、区内有志によるジャズ演奏や「平和を歌う区民の会」の合唱に参加者全員が唱和したり、区内各九条の会の皆さんが壇上でアピールするなど、印象的な出し物が多々あった。歌はジェームス・三木さんの「わたし(日本国憲法)を褒めてください」、講師の小森さんのお母さん作の「青い空」で、当日の会場カンパも70万円近く集まり、また、b感激し、激励されたc、b歴史のランナーになりたいc等の感想も多数寄せられていた。 戦争する国に 冒頭のように私案は、「改憲」の限界を大きく超え、現憲法の最も基本的な、平和・民主・人権・福祉の国家原理を根底から覆そうとする。私たち日本国民は、広島・長崎を始めとする第二次世界大戦における多数の悲劇の反省のうえに、平和国家建設を宣言し、日本国憲法前文と第九条を定めたはずである。私案は「自衛軍」を規定し、今まで不可能とされてきたb武力攻撃自衛軍cの、しかも国連決議なしの海外派兵を可能にするものある。戦後60年にわたる不戦の誓いを破り、海外で武力を振るう軍事大国日本にし、弱肉強食・勝ち組優先の「新自由主義」の国作りを強行しようとする。私案はまた、政教分離原則を投げ捨て、靖国公式参拝を合憲化し、日本をアジアの緊張と戦争不安の震源地にする。憲法九条は世界に誇れるものであり、私たちは他国に日本の戦闘部隊を送り、他国の人々を傷つけることを許したくはない。その願いを踏みにじり、今、イラクなどでのbブッシュの戦争cの前線で積極的に戦闘行為を行い、侵略戦争への荷担を可能にし、結果、日本が手を結ぶべきアジア諸国に大きな不信と不安をもたらし、友好を大きく損ない、平和を危うくしようとしている。 危険な内容 私案はまた、「公共の福祉」から「公益および公の秩序」に言葉をかえて人権制約理由を拡大し、基本的人権の保障全体を根底から危うくしている。私案は総理大臣の権限を強化して国会審議を形骸化させ、政党条項により政党組織への介入に道を開いている。私案は財政民主主義を損ない、地方自治での住民投票制度を削除し、住民の負担義務を規定するなど、ここでも新自由主義的構造改革強行を表明し、福祉・民主主義国家の理念に逆行している。しかも私案は、改正要件を両議院の1/2の賛成に緩和し、更なる憲法改悪にも道を開こうとする。私案の前文は、近代立憲主義から逸脱し、権力者の義務ではなく国民の義務を強調し、平和・人権・福祉国家の理念をかなぐり捨て、軍事大国・新自由主義国家へ向けて風穴を大きく開けようとするものである。 私たちの願い 私案による改憲をさせるわけにはいきません。私たちは、平和と憲法九条を守るために、政党政派の支持の違いを乗り越え、多くの皆様とともに、力を尽くします。皆様のご理解・ご協力を衷心より願っております。 *ホームページあります。ご覧下さい 大田九条の会 http://oota-kenpo9.main.jp/ 弁護士9条の会・おおた http://lawyer-a9.main.jp/ |
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