平成18年4月1日から労働審判制度がスタートします。
弁護士  堀  浩 介
労働審判制とは?
 本年4月1日から、各地の地方裁判所(本庁)において、労働審判制度が開始します。

 これは、民間の使用者とそこに雇われる労働者個人との間に法律上の紛争(例:解雇、残業代の未払など)が生じた場合に、@労働審判官(地方裁判所の裁判官)とともに、労使から選出された非職業的な労働審判員(労働者については、連合や全労連などを出身母体とする審判員が選ばれます)が、A3回以内の期日で調停を試みるとともに、B調停が成立しない場合には、労働審判官、労使の労働審判員の三者が、合議に基づいて、「審理の結果求められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえて」、「事案の実情に即した解決をするために必要な審判」を行うものです。当事者のいずれでもその審判に異議を出せば、審判の効力は失われますが、その場合には自動的に審判の申立時に訴訟を起こしたことになりますので、使用者が審判を受け入れる可能性は高いと言えるでしょう。

 労働審判制度の特徴は、3つのS、すなわち、Speedy=迅速(最大3回の期日。東京地裁では、審判の中立から3か月程度で調停が成立するか、審判が下されることを想定しています)、Specialized=専門性(労使審判員の参加により、労使の実情に通じた解決がもたらされるでしょう)、Suitable=紛争の実態に即した解決(当事者が最も望む形で調停が成立するか、審判が下されることを目指しています)、という点に求められます。
 この手続の概略を図示すると、以下のようになります。

どのような場合に
この手続を利用するの?
 この手続は、比較的簡単な紛争について、裁判にまで訴えることなく、早期に解決することを希望する場合にふさわしい手続といえます。
 たとえば、違法に解雇されたものの、復職を求める意思のない労働者が、一定の金銭をもらって紛争を解決しようと考える場合、使用者により一方的に賃金を切り下げられてしまった場合、いじめ・嫌がらせの配転・出向の効力を争う場合などにこの手続を使うことは有効でしょう。
 反面、労働組合と使用者の紛争、公務員の紛争はこの手続の対象外ですし、複雑な争点を含み、使用者が争うことが明らかであって、3回の期日では事案の中味が十分に明らかにならないような紛争については、この手続によるべきではないでしょう。

実際、申立てを行うには?
 裁判所に納める費用は民事調停の費用に準じます。例えば、解雇を理由に300万円の損害賠償を求める場合には、裁判所に納める費用は、1万円の印紙代と郵便切手代程度です。
 現在、書店に行けば、申立書のひな形を載せた書籍が売られており参考になります。申立書には自分の考えることを筋道を立てて書き、必要と思う証拠は全てそろえて裁判所に提出しましょう。期日には、書面を用意する必要はなく、口頭で自分の主張を審判官や審判員にぶつけ、質問があればそれにどんどん答えて、大いに自分の権利を主張して下さい。    
 また現在、裁判所は弁護士を代理人に立てることを希望しています。弁護士を立てれば、十分に労働者の主張を審判官、審判員に主張し、必要な証拠についても的確なアドバイスをしてくれるでしょう。問題は弁護士の費用の点ですが、労働審判を申し立ててみたいとお考えの方は、当事務所に遠慮なくご相談下さい。お話し合いの上で、決めていきたいと思います。もちろん自分自身で審判を申し立てることにもチャレンジしてみて下さい。


なんぶ2002冬号