日本航空 客室乗務員 岩本章子さん | |
裁判所がくも膜下出血を労災と認める!! | |
弁護士 永野 靖 | |
日本航空株式会社に1966年12月に入社し、客室乗務員(いわゆる「スチュワーデス」)として勤務してきた岩本章子さんが、1996年5月29日未明に滞在先の香港のホテルで脳動脈瘤破裂に伴う大量出血によるくも膜下出血を発症しました。幸い一命はとりとめたものの、現在も右半身が麻痺して杖をついて歩く状態で、言語も不自由です。岩本さんは労災を申請しましたが、成田労働基準監督署長が労災にはあたらないと不支給処分決定を下したため、2000年12月1日千葉地方裁判所に行政訴訟を提起したところ、千葉地方裁判所は2005年9月27日、岩本さんの主張をほぼ全面的に認めて処分の取り消しを命じました。 華やかな職業と思われがちな国際線客室乗務員は、実はとても大変な仕事です。接客業のストレスによる精神的負担のみならず、不自然な姿勢で飲食物を用意したり重いカートを押して行う機内サービス等のため、腰痛に悩む客室乗務員も多く、身体的な負担も相当なものです。 そして、今回の裁判で特に問題になったのが、時差や早朝・深夜・徹夜勤務などの不規則勤務、長時間勤務により睡眠の質・量が劣悪化し、疲労が蓄積して、くも膜下出血発症に至ったという点です。国際線客室乗務員は、例えばニューヨーク便、シドニー便、ロサンジェルス・サンパウロ便、ケアンズ・ブリスベーン便、フランクフルト便等々、時差も気候も乗務時間も全く異なる世界各地に飛ぶため、朝7時頃起きて夜12時頃眠るといった生活リズムを作ることが全くできません。例えば、ニューヨーク便の場合、日本とニューヨークでは昼夜が逆転しているので、勤務時間は往路は午前10時15分から翌日の午前1時30分まで、復路は午前0時40分から午後5時30分まで(いずれも日本時間)と極めて不規則で、かつ深夜勤務を強いられます。その結果、国際線客室乗務員は良質の睡眠を取ることができず、疲労が蓄積していくのです。今回の訴訟では医師の協力によって、睡眠の質・量の劣悪さが睡眠時血圧の低下を妨げ、脳動脈瘤の脆弱化と破裂につながるのだということも明らかになりました。 国側は、岩本さんの勤務時間は就業規則の範囲内であるから業務が過重であるとは言えないと主張しましたが、今回の判決の意義は、たんに量的な労働時間のみならず、国際線客室乗務員の勤務実態(業務の質)を直視して、岩本さんのくも膜下出血発症を労災と認めたことです。特に、深夜早朝勤務や不規則勤務が疲労の蓄積に影響すると認められたことは、そのような勤務体系の労働者(例えば看護師やタクシー労働者等)が脳・心臓疾患を発症した場合の労災認定に肯定的影響を及ぼすものと思われます。 国側が控訴したため、岩本さんの闘いは控訴審に舞台を移します。岩本さんを支えた労働組合や支援者の皆さんとともに、弁護団も最善を尽くして勝訴を勝ち取る所存です。今後ともご支援をよろしくお願い申し上げます(当事務所からは堀浩介弁護士、清見榮弁護士、私が弁護団に参加し、堀浩介弁護士が主任として弁護団を牽引しました)。 |