ホワイトカラー・イグゼンプション制度とは何か。
ホワイトカラー・イグゼンプション制度は、アメリカの公正労働基準法(Fair Labor Standards Act)第13条に定められた制度です。これは、一定以上の収入があり、特に時間外労働の割増賃金を支払って保護する必要のないホワイトカラー労働者については、使用者が割増賃金の支払いをしなくてもよいとする制度です。
アメリカの公正労働基準法によれば、使用者が雇用する労働者を1日8時間を超えて労働させても割増賃金を支払う義務はありませんが、1週間40時間を超えて労働させた場合には、労働者に対して通常の賃金の1.5倍の割増賃金を支払わなければなりません(第7条)。しかし、ホワイトカラー・イグゼンプション制度の対象となる労働者(これを「イグゼンプト」と呼びます)についてはその必要がないのです。
イグゼンプトは大きく、管理職イグゼンプト(executive exempt)、運営職イグゼンプト(administrative exempt)、専門職イグゼンプト(professional exempt)の3類型に分けられます。このうち、特に我が国において導入された場合に影響が大きいのが管理職イグゼンプトと運営職イグゼンプトでしょう。 管理職イグゼンプトは、主たる職務が企業あるいは慣習的に認識される企業の一部局あるいは部署をマネジメントする労働者で、習慣的かつ原則的に、2人あるいはそれ以上のフルタイム労働者あるいはそれと同視できる者の業務を指示し、他の労働者の雇用、解雇、昇進、昇格その他労働者の地位の変更に関する提案あるいは推薦が企業内において特別の比重が置かれている者とされています。この要件は分かりづらいのですが、今アメリカでは、例えばファーストフード店の店長や副店長までもが管理職イグゼンプトとして、割増賃金を受け取る権利がないと見なされています。
次に、運営職イグゼンプトは、主たる職務が使用者やその顧客のマネジメントや一般的な仕事の指示に直接に関係する事務的あるいは非マニュアル的な労働を行う労働者であり、主たる職務が裁量性があり、独立した判断の行使を含み、その判断が重要なものとして企業内で注意を払われている者とされています。これによる限り、例えば、金融機関で働く労働者の大半がイグゼンプトとされるでしょう。
以上の要件によれば、かなり広範囲のホワイトカラー労働者がイグゼンプトとされてしまうのです。実際、アメリカにおけるイグゼンプトは、1999年度においては、全雇用労働者の21%を占めているとされています。いかにアメリカの労働者が日本の労働者に比して割増賃金の権利を奪われているかが分かります。
日本における導入の動きについて
我が国は、1947年に労働基準法が制定され、1日8時間1週48時間の労働時間制が導入されました。しかし、1980年代から労働時間の弾力化の流れが一気に進みました。その一方で、不払い残業が後を絶たず、2003年の労働基準監督署による是正指導件数は1万8500件、書類総件数は84件(前年比35件増)となり、2003年に東京労働局が是正支払いをさせた企業は180社、42億円(02年下期には全国で403社、72億円)に上っています。また、長時間労働によって健康を害する労働者が後を絶ちません。
こうした現状でホワイトカラー・イグゼンプション制度が導入されれば、ますます使用者は割増賃金の支払いをせずに労働者を長時間働かせることになり、更なる労働者の経済的困難、健康被害がもたらされることは必至です。ところが、違法な現状を是正するのではなく、むしろそれを法律上も追認するのが今回のホワイトカラー・イグゼンプション制度導入の動きなのです。
2003年12月には、労働政策審議会が「アメリカのホワイトカラー・イグゼンプション等についてさらに実態を調査した上で、今後検討することが適当である」との意見を出し、2004年12月には、日本経団連経営労働政策委員会がホワイトカラー・イグゼンプション制度を導入すべきであるとの意見を出しました。そして、ついに本年4月、厚生労働省は「今後の労働時間制度に関する研究会」を立ち上げ、アメリカのホワイトカラー・イグゼンプション制度の導入に向けて大きく一歩を踏み出しました。また、6月には、日本経団連が意見書を出し、アメリカの制度をさらに拡大する内容のホワイトカラー・イグゼンプションを導入すべきだとしています。政府は、2007年の国会にホワイトカラー・イグゼンプション制度を盛り込んだ労働基準法改正案を提出することを目指しています。この制度を日本に導入させない闘いはこれからがいよいよ本番です。
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