憲法に思う
            〜熱い想いを語る〜


 日本国憲法が1947年に施行されてから半世紀以上を経た今、憲法「改正」の動きが本格的になりつつあります。昨年6月には自民党の憲法改正プロジェクトチーム(「憲法改正のポイント」「論点整理」)、公明党の憲法調査会(「論点整理」)、民主党の憲法調査会(「創憲に向けて、憲法提言中間報告」)が相次いで、改憲に関する論点整理案を明らかにしました。また、国会に設置されている憲法調査会は、本年5月に「最終報告書」をまとめる予定となっていますが、この調査報告書は改憲への方向を打ち出す内容になると言われています。これに合わせ、自民党は本年中に、民主党は06年中に党としての改憲案を作成することを表明しています。
 私達はいま、日本国憲法に刻まれた平和と民主主義への熱い想いをみつめ直す時期にきています。多くの国民のみなさんが、いまこそ憲法について考え、一緒に語り合うことが大切な時期にきているのです。


                         
憲法とユネスコ憲章と武力によらない平和と

                             海部幸造
 私は、大学生の頃に「ユネスコ研究会」というやや内容茫漠としたサークルに入っていました。ユネスコ憲章の中核は、非武装平和の思想です。「戦争は心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない。相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸人民の間に疑惑と不信を起こした共通の原因であり、この疑惑と不信のために、諸人民の不一致があまりにもしばしば戦争となった。ここに終わりを告げた恐るべき大戦争は、人間の尊厳・平等・相互の尊重という民主主義の原理を否認し、これらの原理の代わりに、無知と偏見を通じて人間と人種の不平等という教義を広めることによって可能とされた戦争であった。(中略)よって、平和は、失われないためには、人類の知的及び精神的連帯の上に築かなければならない。(後略)」
第2次世界大戦における、日本のアジア侵略、ナチスドイツのユダヤ人虐殺等はまさに、「人間の尊厳・平等・相互の尊重という民主主義の原理を否認」し、他民族に対する蔑視、偏見を植え付けることで可能となったものでした。今なお続く世界の多くの紛争、アメリカのイラク侵略戦争、北朝鮮問題等々を考えるとき、この憲章の精神は、誠に正鵠を射たものであると思います。憲法にはこうした武力によらない平和の思想が結実しています。
 今、平和主義を主要なターゲットとして憲法を変えようとの動きが切迫してきています。しかし第1に、こうした非武装平和の現実化の条件は、歴史の流れの中で、そして世界の経済的繋がりの拡大と緊密化、文化的交流の量と質の飛躍的拡大の中で、かつてないほどふくらんでいます。もちろんこれらは条件でしかなく、ゴールが具体的に見えているものではありません。しかし、そうした中で、私達は武力によらない平和の実現を希求して、現にある条件を生かして一歩一歩その実現に向かおうとするのか、それともそうした方向性を放棄して、戦争をする国になる道を選択するのかが、今問われているのだと思います。
 第2に、ブッシュ大統領は「大量破壊兵器が存在する」などといった虚偽の情報操作によりイラク侵略戦争を強行しました。日本の政府与党はこれに参加・協力し、さらに日本がアメリカに追随して世界の何処にでも出ていって一緒に戦争できる体制を完成させようとしているのが現在の状況です。こうした中で憲法を変えるということが、実際にどのような結果を生み出すのか、を考えなければならないと思います。自民党案のように改正すれば、それは彼らの前記の意図を完成させることになります。また、「軍事的『国際貢献』を可能にする」といった改正案についても、それが現在の状況の中で実際にどのような結果をもたらすかを考えなければならないだろうと思います。
 いま、私達の日本は、大きな歴史的な曲がり角にさしかかっています。その渦中で、私達国民も自分自身の生き方を問われているのではないかと思っています。
憲法を読んでみませんか
                   長尾詩子

 先日、『華氏911』を見ました。衝撃的な映像が次々とスクリーンに映りました。アメリカ軍の若者が、イラクで、音楽を聴きながら、「音楽を聴きながらのほうがいいんだよね。」と言いながら、まるでゲームをするかのように、一般民間人を殺しているシーン。そんな若者が、数日後、「アメリカのためだと言われてイラクに来たけれど、こんなにも抵抗しない民間人を殺すことのどこが国のためなんだろう。」と泣きじゃくるシーン。産業空洞化による完全失業率50%(!)の町で「貧困からの脱出は軍隊に入り、奨学金で高等教育を受けること」と言って息子を軍隊に入れた女性が、その後、イラクでの息子の戦死を聞き、涙を流すシーン。
 一方、側近から9・11事件の報告を受けながらなんの対策もとらずに呆然としているブッシュ大統領の顔。ブッシュ父子が、サウジを訪問中、ビン・ラディン家や王家と次々と握手をしてほほえむシーン。大量破壊兵器を巡って次々と変わるブッシュ大統領の発言。
 改めて、戦争の悲惨さ、残酷さを思うとともに、テロの原因を突き止めることなく、イラクは「悪の枢軸国」と決めつけて罪のない民間人を殺したアメリカの横暴さを感じました。
 今、アーミテージレポートに急がされて、9条を変えて、集団的自衛権が認められるようにする「憲法改正」の動きがあります。集団的自衛権とは、結局、自衛隊がアメリカの想定する「敵国」に対してアメリカ軍と一緒に攻撃を加えるということです。私は、「戦争を知らない」世代です。戦争の悲劇を体験したことはありません。しかし、上記の映画のシーンを思い浮かべると、理由なく、民間人を殺す、イラク戦争のような悲惨な戦争に、私たちの国の自衛隊がアメリカ軍とともに「加害者」として行動することは、いやです。
 日本は、戦争の反省のもとに、平和な世界が続くことを願い、日本だけではなく、全世界が平和な世界となるように積極的に努めていくことを宣言しています。このすばらしい日本国憲法を、「加害者」になるために「改正」することはどうしても許せないのです。
 最後に、ある高校生の集まりでお話した時の質問です。ー「憲法って、何ですか?」、「憲法には9条以外にどんな条文があるんですか?」。「えー、学校で教わらなかったの??」と驚きました。でも、実は、憲法を忘れてしまった大人も多いかなと思って、提案です。ー憲法を読んでみませんか。北海道新聞の調査では、憲法を読んだ7割の人は、憲法「改正」には反対するという結果もでています。
 是非、一度、憲法を、声に出して読んでみてください。
あなたはどのような世界に暮らしたいですか?
                            杉尾健太郎
 アメ…じゃなかった、アノ国は、自分が殺されるのが嫌だから、相手を殺しちゃいます。相手が自分を殺そうとしているんじゃないかと思ったらもう、すぐに殺しちゃいます。とりあえず殺しちゃえば、自分だけは安全です(周りは危ないことこのうえないですが)。自分以外の人間が誰もいなくなれば、一番安全です(寂しいでしょうが)。こういうヤツこそ「ならず者」というのです。
 今の私たちは、自分が殺されるのが嫌だから、相手も殺しません。何か問題が生じても、相手とよく話し合いをします。とことん話し合って問題の解決を探ります。これが、かつて「ならず者」として世界で孤立し世界(特にアジア)に多大な被害をもたらした私たちが、世界に対して約束したことがらです。相手が話し合いに応じなかったら?いきなり殴りかかってきたら?そういった相手の態度には必ず原因があるはずです。その原因を取り除くために、真剣に話し合いをする。話し合うだけではなく、原因を取り除いて問題を解決するために、一緒に行動する。そうまでして話の分らない国はない。これが、私たちの確信です。
 私たちの政府は、この約束を踏みにじって自衛隊をイラクに派遣しました。そして今、この約束自体をやぶり捨てて、名実ともにアノ国に付き従っていこうという動きがあります。アノ国が主導する世界と、私たちが敗戦時に目指そうとした世界、私たちはどちらへの道を選択すべきでしょうか。あなたは、どちらの世界に住みたいと思いますか?子どもたちにどちらの世界を残したいですか?私にとっては、答は明確です。
 単に憲法の条文をいじらないことが良いと言っているのではありません。いま一度、憲法の平和原則をしっかりと再確認し、私たちの政府に、しっかりと平和原則を護らせるべきです。日本から、世界平和を創造するんです。日本は、世界で2番目の経済力を持っています。私たちの選択は、世界を変え得る力を持っています。1人1人が自覚すれば、私たちは、この世界を変えることができるんです。もう少し楽しく暮らせる世界に変えませんか?

第3回Oota憲法Schoolを開催しました

「憲法の心、平和のこころ」〜改憲論のゆくえ〜 大田憲法会議主催・東京南部法律事務所共催
昨年10月15日に、29歳という大変若い講師馬奈木厳太郎さん(早稲田大学大学院法学研究科博士課程在籍)を迎え憲法9条をメインにした学習会を行いました。あまり知られていない憲法調査会での国会議員のあまりにもひどい発言なども紹介され、改憲をこの人達に任せていてはとんでもないことになる、ひとりひとりが真剣に考え行動することが必要だと思いました。憲法9条の大切さを改めて実感させられる、大変分かりやすい学習会でした。

なんぶ2002冬号