ど う 変 わ る ?    −画期的な解雇規制法の成立−その一方で進む労働法制の改悪
                       弁護士  堀   浩 介
労働基準法改正案が本年6月27日、参議院において可決され、成立しました。改正労働基準法は7月4日に公布され、同日から6ヶ月を超えない範囲内で政令で定める日に施行されます。また、これに先立って、6月6日には労働者派遣法が改正されています。
 今回の改正労働基準法・労働者派遣法は、以下に見るように、労働者の地位・働き方に重大な影響を与える内容となっています。
1 解雇規制法(労働基準法第18条の2)の成立

 改正労働基準法は、これまで労働者が強く求めてきたにもかかわらず、容易に実現しなかった解雇を規制する条項(第18条の2)を初めて設けました。従来は、最高裁判所の判例という形で、「解雇権濫用」法理が確立していました。これは、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当として是認できない解雇は、解雇権の濫用として無効となるというものです。


2 企画業務型裁量労働制(労働基準法第38条の4)の要件の緩和

  事業運営上の重要な決定が行われる事業場において、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務に従事する労働者に関して、その業務の性質上、その遂行の手段や時間配分を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、1日一定の時間(例えば8時間)労働したものとみなす制度が企画業務型裁量労働制です。今回の法改正では、上記の「事業運営上の重要な決定が行われる事業場」という要件が削除されています。その他、裁量労働制の導入を決議する労使委員会の決議の要件が全員一致から5分の4に緩和されるなど、導入の要件が大幅に緩和されました。
  裁量労働制は、8時間労働の原則を崩し、際限のない長時間労働(不払い残業の合法化や過労死の増加)に道を開く制度です。したがって、その安易な事業場への導入に歯止めをかけることこそ重要です。しかし、今回の法改正は、対象事業場の無原則な拡大を招き、事業場への裁量労働制を導入しやすくするものです。これではさらなる過労死の増加がもたらされ、不払い残業隠しに悪用される危険性があります。


3 労働者の雇用期間の延長(労働基準法第14条)

  期間の定めのある雇用契約の雇用期間はこれまで上限1年(専門的知識を有する労働者、満60歳以上の労働者については3年)とされていたものが、3年(5年)に延長されました。これは、雇用期間の定めのない労働者(いわゆる正社員)を減らして、雇用期間の定めのある労働者に置き換える流れを強めると共に、若年定年制(例えば、大学卒業後、3年間の雇用契約を結ぶと共に、3年経過後には契約を更新しない)の復活(過去には女性の30歳定年制が広く行われていました)に道を開くものです。
  雇用期間の延長に伴って、上限が3年となる労働契約を締結した労働者は、1年間を経過した日以後においては、使用者に申し出ることによりいつでも退職することができることとされました。


4 労働者派遣法の改正

  6月6日、労働基準法の改正に先立って、労働者派遣法が改正されました。来年3月にも施行される予定です。その内容で重大な点は以下のとおりです。
 派遣期間の延長
   専門的な業務以外の業務への派遣(通常派遣)について、派遣期間が1年から3年に延長されました。これにより、企業による派遣労働者の利用が一層進むことが予想されます。
 派遣の解禁
   従来禁止されていた物の製造業、社会福祉施設における医療業務への通常派遣が解禁されました(但し、物の製造業への派遣期間は当面1年)。直接雇用の原則を曲げ、労働者あるいは福祉施設の入所者の保護・福祉が後退するおそれがあります。
 紹介予定派遣での事前面接の解禁
   労働者を紹介する目的で派遣する場合、派遣先企業が事前面接をできるようになりました。これにより、企業は面接でふるいにかけた労働者を、解雇のリスクを負わないで、さらに労働者を一定期間働かせ、その結果によって選別し、採用の可否を決することが可能となります。企業によって濫用された場合、労働者が正社員として採用されるまでのハードルが無用に高くなってしまいます。
 直接雇用の促進
   派遣元の派遣停止通知に反して派遣労働者を使用する場合、直接雇用の申込みをしなければならないと共に、3年を超えて受け入れ、同一業務に労働者を雇い入れる場合、当該派遣労働者への雇用申込みを優先することとされました。


5「職場に改悪法を持ち込ませない闘い」

 今回の労働法の改正は、これまで政府・経済界が進めてきた正規雇用の絞り込み、非正規雇用の増大、労働時間の弾力化のための労働法制改悪の流れに位置づけられます。改正労働基準法に解雇を規制する条項が盛られた点は大いに評価すべきですが、反面、労働者の雇用期間の延長、労働者派遣の要件のさらなる緩和により、今後正規雇用労働者が不安定な契約社員や派遣労働者に代替されていく危険が一層強まりました。また、残された正社員も、裁量労働制により際限のない長時間労働に追い込まれかねません。今後は改正された法律が職場に持ち込まれ、濫用されないよう、職場の運動を強めていくことが必要です。

なんぶ2001年夏号