Q&A 弁護士費用敗訴者負担制度の問題点
                                                                弁護士 永 野  靖
 弁護士費用の敗訴者負担とは?                                

 現在政府の司法制度改革推進本部で弁護士費用の敗訴者負担制度の導入に向けた議論が進んでいます。
 弁護士に委任して裁判をするときには、裁判所に払う費用と弁護士に払う費用がかかります。このうち弁護士費用については、現行の制度ではそれぞれの当事者が自分が委任した弁護士の費用を負担するのが原則になっています。これに対し、弁護士費用の敗訴者負担制度が導入されると、敗訴した当事者は自分の弁護士費用のみならず相手方の弁護士費用も負担しなければならなくなります。

 敗訴者負担になると裁判が利用しやすくなる?

  「裁判に勝てば弁護士費用を相手方に負担させることができるのだから、裁判を利用しやすくなるのではないか」皆さんはそう思われるかもしれません。しかし、裁判をする前から勝つとわかっている裁判はほとんどありません。もし裁判に負けたら相手方の弁護士費用も負担するかもしれないということになれば、多くの人は裁判に踏み切れなくなります。
 特に、資金があまりない市民や零細企業は裁判を利用しにくくなりますが、他方豊富な資金を持つ大企業や資産家にとっては、たとえ敗訴しても相手方の弁護士費用を負担することはたいした問題ではないので、裁判を利用しにくくなることはありません。このように、敗訴者負担は資力のない者にとって裁判を利用しにくくなる制度です。

 どのような裁判が起こしにくくなるのか?

  消費者訴訟(先物取引、証券、変額保険、詐欺商法等)、集団的被害者救済訴訟(公害訴訟、薬害、ハンセン病等)、政策形成訴訟(教育訴訟、政教分離訴訟、選挙定数是正訴訟、戦後補償訴訟、平和訴訟、社会福祉訴訟等)等の訴訟は、勝訴の見込みはほとんどないままに取り組まれてきた訴訟です。その結果、これまで認められなかった権利や制度が広く認められるようになってきました。労働事件についても、法律には明確に定められていない労働者の権利を裁判の積み重ねで勝ち取ってきた歴史があります。また、医療過誤、建築紛争、製造物責任等、一般市民にとっては専門的な知識と証拠がないために勝訴の見込みがたちにくい訴訟もあります。
 もし敗訴者負担制度が導入されれば、こうした訴訟は敗訴のリスクを覚悟して提訴することが難しくなり、裁判を通じて新たな権利を獲得したり社会のあり方を改善していくチャンスが失われてしまいます。
 このように敗訴者負担制度は多くの問題がある制度なのです。当事務所でも、みなさんと共に反対の声を上げていきたいと思います。

敗訴者負担に反対する署名にご協力を!
 現在日本弁護士連合会では、弁護士費用敗訴者負担制度導入に反対する取り組みを進めており、私たちの事務所でも反対署名に取り組んでいますので、皆さんのご協力をお願いいたします。

なんぶ2002冬号