1996年5月に提訴された東京大気汚染公害裁判第一次訴訟の判決が去る10月29日に言い渡されました。判決は、被告国、東京都、首都高速道路公団に対し、7名の原告に合計7920万円の支払いをするように命じました。一方で、ディーゼル自動車を製造してきた被告自動車メーカー7社に対する損害賠償請求を棄却しました。
五度道路設置管理者の責任を認める
判決は、自動車排ガスと住民の健康被害の間の因果関係を認め、道路設置管理について、国、公団、東京都の責任を認めました。判決は、道路管理者は、関係各機関と協議を行って道路環境を改善するための有効な施策を実施する責務があるし、供用の全部又は一部の廃止も含め環境改善のための施策を実施すべきであって、多額の費用がかかるとか、住民の協力が得られない等は言い訳にならないと、これまでの大気裁判以上に道路管理者の責任を厳しく断罪しました。大気汚染被害に対する道路管理者の責任についてはこれまで4回にわたって裁判所において明確に認められてきましたが、今回の判決で、判例上確定した流れとなったといえるでしょう。
自動車メーカーの法的責任を不当にも否定
また、判決は、ディーゼル自動車の排ガス中の汚染物質と健康被害の因果関係を認めながら、自動車メーカーの法的責任を否定しました。その理由として、個々の自動車に排ガス対策が施され、排ガス中の有害物質が減少しても、自動車交通量の増加を抑制しなければ大気汚染が改善されないこと、自動車交通量の抑制は行政(道路管理者)が行うべきことを理由としました。しかし、この判断自体、自動車メーカーには製造した大量の自動車が都心部に集中することは十分に予見できたこと、自動車販売台数の増減はメーカーにとって支配可能であったことを見過ごしています。
もっとも、判決は自動車メーカーが昭和48年頃から自動車排ガスによって気管支ぜん息などの呼吸器疾患を生じるおそれがあることを予見できたこと、自動車メーカーには最大限かつ不断の企業努力を尽くして排ガス中の有害物質を低減するための技術開発を行って、その技術を取り入れた自動車を製造・販売する社会的責務があることをはっきりと認めています。
被害者救済制度の確立に第一歩を記す
判決当日、原告団・弁護団、支援者はこの判決を持って自動車メーカーや東 京都、国土交通省、首都高速道路公団と交渉を持ちました。自動車メーカーの 殆どは、行政が被害者救済制度を作れば財源負担も含め検討すること、環境対 策を強化することを約束しました。首都高速道路公団も被害者救済制度に前向きに取り組むことを約束する確認書に署名しました。この日の行動により、被害者救済制度の確立に向けた大きな一歩が記されたといえるでしょう。
被害者全員の救済に向けて闘いは控訴審へ
東京都は、損害賠償請求を認められた原告らに対する控訴を断念し、判決は その部分について確定しました。これは、東京都自身、道路管理者として必要 な対策を怠ってきたこと、また原告らの被害の深刻さを認めざるを得なかった からです。
原告団は、請求を認められなかった原告については、国、東京都、首都高速 道路公団、自動車メーカー7社に対して、請求を認められた原告についても、 認められた部分が請求の一部であることから、国、首都高速道路公団、自動車 メーカー7社に対して、東京高等裁判所に控訴しました。
被害の早期全面解決と被害者救済制度確立に向けて、これからも、より一層のご支援をよろしくお願い申し上げます。
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