日本航空の安易なリストラ賃金削減策に断。
日本航空機長組合長時間乗務手当裁判
全面勝利判決を得る。

                                             弁護士 宮川 泰彦
1,判決内容
 東京地方裁判所は、10月29日、日本航空に対し、機長ら運航乗務員に支払っていた長時間乗務手当を3分の1にまで減額した就業規則の一方的不利益変更は無効だとして原告48名の機長に対して総額3億1000万円余の支払いを命ずる判決を言い渡しました。

2,申立に至った事情
 日本航空は、1993年11月、機長組合など運航乗務員を組織する全ての労働組合の反対を押し切って、長時間乗務等に関する勤務基準を緩和してきました。(その結果、例えば、交替乗員が全くいないシングル編成では、9時間までの乗務時間制限が11時間に延長され、交替要員なしで11時間の継続乗務が可能としたのです)。その際に、苛酷な長時間乗務に対する手当として長時間乗務手当が創設されました。ところが、日本航空は、その5年後の98年には、原告らが所属する日本航空機長組合の反対を無視して93年に創設した長時間乗務手当を大幅に減額する賃金改定を強行したのです。長時間乗務手当は、苛酷な長時間乗務に従事したことの手当として支払われるものであるのに、日本航空は、長時間乗務の苛酷さを緩和する措置は何らとらない上、今度は手当を一方的に削減してきたのです。このような長時間乗務手当減は到底受け容れられないとして、機長組合員の総意を代表して48名の機長が提訴しました。

3,総括
 審理を通じて、長時間乗務手当引下「改定」が実行された1998年当時の日本航空の経営状況は、あらゆる指標に照らして見ても明らかに黒字基調であった事実、日本航空の機長等運航乗務員の労働生産性は海外同業他社に比して極めて高くなっている反面、人件費コストは群を抜いて低くなっている事実、機長ら運航乗務員は日本航空の国際競争力に十分に寄与している事実等が次々に明らかにされました。機長組合の反対を押し切ってまで長時間乗務手当引き下げを強行すべき、必要性・合理性は存在しないことが明らかとされたのです。
 ところで、日本航空は、国際競争力を強化して打ち勝つためには、「構造改革を全社的に押し進め」、「不断のコスト削減努力は避けて通れない」、「外部要因に左右されることなく日本航空独自で努力できるコスト削減の努力・人件費調整が必要」、だから、「長時間乗務手当減額は必要であり削減の合理性は認められる」との主張を展開しました。このような主張は、企業は常に競争に参加しているのだから、企業が必要と考えれば、いつでも人件費コストを削減することを認めるべきだ、という極めて安易な考え方だと言わざるを得ません。
 判決は、このような極めて安易な賃金削減の必要性・合理性を否定し、日本航空の賃金削減施策を断罪したのです。
今日、「不況生き残り」「競争に打ち勝つため」のかけ声のもと、労働者・労働組合の反対を押し切っての賃金削減が横行しています。本判決は、あたかもリストラ万能の風潮が蔓延する社会に対し、安易な賃金削減は許されないことを警告しているものです
機長組合からの声                              機長組合 法廷対策部O機長
 日本航空機長組合は、「長時間乗務手当の一方的な切り下げ」に対して、組合の取り組みとして裁判を起こすことを決定しました。東京南部法律事務所の弁護士さん達とかなり論議をして、争点を決め、主張の骨格を定めました。裁判では、裁判長の問題提起を含めて、「会社が強行実施している不合理性」について、職場が「おかしい」と考えてきたことを中心に、かなり詳細に主張・論証しました。それは、最高裁判例に沿った「経営の必要性・不利益の大きさ・変更の相当性・代償措置・労使協議の経過・他労組の対応」等ですが、いずれの項目も、弁護士さん達との綿密な話し合いで、書証を提出し、証人尋問を行うことができました。そのような努力によって完全勝利判決を得ることができました。大変有難うございました。この判決は日本航空の職場に大きな自信と希望をもたらしています。今後とも取り組みを進めます。

なんぶ2002冬号