米 軍 支 援 法 で あ る
有 事 法 制 に 反 対 !
弁護士 長 尾 詩 子
 有事法制3法案は、平和を守りたいという国民世論により、
採決はされませんでした。しかしながら、現在政府は次回国会での検討を予定しています。
 有事法制3法案については、日弁連も早期から憲法に抵触するとの意見表明をしています。憲法9条を形骸化し、「憲法の脳死状態」を生じさせるという有事法制3法案を成立させてはいけないという願いを込めて、以下、有事3法案(4月16日に国会に提出された「武力攻撃事態法案」「安全保障会議設置法案」「自衛隊法「改正」案」の3法案)の危険性を記したいと思います。

1 有事法制の主たる問題点
第1に、「武力攻撃事態」認定があいまいである点が問題点として挙げられます。
 武力攻撃事態法案2条6号によると、武力攻撃事態が認定されると、「対処措置」つまり武力の行使が可能になります。そのような重要な認定であるにもかかわらず、「武力攻撃事態」は、「おそれ」「予測」という2つの文言により、緩やかな解釈が可能となっています。
この認定に関しては、周辺事態法との関係が重要です。認定は事態対処専門委員会に委ねられますが、ガイドラインで定められた日米間の調整システムが活用されることが予想されます。また、国会において政府は「(武力攻撃事態は)周辺事態法での周辺事態と重なる。」との答弁をしています。これらのことに鑑みるならば、アメリカが戦争をおこしたら、相手国から日本への武力攻撃が予測されるとして有事立法が発動される危険があるということになります。
第2に、有事立法が国民の権利を大幅に制限するものである点は問題です。
 武力攻撃事態法案第8条で、国民に協力責務を負わせたこと、自衛隊法「改正」により保管命令・立ち入り検査命令違反には「6月以下の懲役又は30万円以下の罰金」との罰則を定めたこと、このような法律を作ることは戦後初めてです。抽象的にではあれ、武力攻撃に対して国民に協力を明記したことは、戦前の経験によれば、これを根拠に次々と戦争協力に向けて国民の権利を制限する法律が出てくるきっかけになります。また、保管命令・立ち入り検査命令違反に罰則が科されることは、それが軽い刑罰であったとしても、「戦争に協力しないと犯罪者にされるんだ」という強烈なインパクトを与えて、戦争反対の声を封じ込めてしまうものとなります。
第3に、内閣総理大臣への権利の集中という問題点があります。
 内閣総理大臣は、前述した「武力攻撃事態」の認定を行う対策本部の長であり、構成員の任命権限を有します。自分の意に反する認定をしようとする者は構成員から外すことが可能であり、内閣総理大臣は認定については独裁的権限を持つと言えます。
 また、憲法は、国民に対して、国会では目の行き届かない各地方の特色にまで考慮した生活を保障するために、地方自治体を設けています。しかし、武力攻撃事態法案では、内閣総理大臣が、地方自治体に武力行使の実施の「指示」をし、さらに「指示」に基づく措置が行われない場合には直接の実施ができるのです。例えば、現在行われている神戸の非核証明方式は、神戸市の市民の声を無視して、内閣総理大臣の鶴の一声で、なくすことが可能になるのです。 

2 有事法制の狙い
 このような有事法制が、なぜ、今、国会に上程されることになったのでしょうか。
 自民党政府は、確かに、30年も前から有事法制については準備を進めていました。
 しかし、今、有事法制が国会に上程されることになったのは、その準備が整ったからだけではありません。1991年湾岸戦争においてアメリカから「血による貢献」を求められて以来、1994年北朝鮮危機、1997年日米ガイドラインの制定と続き、2000年、「米国防大学国家戦略研究所特別報告」(アーミテージ報告)では、有事立法制定も含めた米日軍事協力を打ち出しています。日本における軍国主義の復活ではなく、アメリカは日本に対してアメリカの軍事力による世界戦略に日本が参加することを求め、日本政府はこれに協力する意図の下に有事法制を制定しようとしているのです。
 また、「今の日本の平和はアメリカの傘下にあるからこそ保たれているものなので、日本がアメリカの傘下から出ることは危険なのではないか」との疑問をよく聞きます。
 しかし、今の日米間のような従属関係ではなく、友好関係を結ぶことは可能です。私は、今年2月上旬に、中米の国コスタリカに行きました。コスタリカは、憲法で軍隊を放棄し、周囲の国にも平和政策を進める外交を展開することにより中米の戦争をなくしました。コスタリカでは、ほとんどの店でアメリカドルが使用できるほどにアメリカ経済の影響が大きい国ですが、アメリカからの軍事要求に毅然と対応しています。ここに、「従属はしないが友好である」というひとつの見本があり、決して困難ではないことが示されているといえます。
 また、前記のような有事法制の狙いに鑑みると、日本がアメリカの軍事傘下にいることこそ、日本がアメリカの起こした戦争に巻き込まれ平和ではなくなるおそれが大きいことに注目すべきだと思います。

 3 米軍支援の戦争への道か、平和の道か
以上のように、有事法制は危険な「内容」と「狙い」を有する法案です。この法案に反対するか否かは、究極的には、米軍支援の戦争の道を進むのか、それとも憲法9条を守り平和の道を選ぶのかが問われていると思います。
平和とは、空気のようなものです。私たちが安心して暮らすための基本であり、失われてからではとりかえしがつかない大切なものです。だからこそ、この有事法制に反対し、たとえ次回国会で提案されたとしても、廃案にするよう大きく声をあげていきましょう。
                                            ※執筆 2002・7・22

自由法曹団 編
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有事関連3法案の恐るべきねらいを条文にそって詳しく説き明かす!

なんぶ2001年夏号